白 露

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白 露

 帳場へ戻った朝霧(あさぎり)は、冷め切った茶を啜りひと息着くと、涙で頬を濡らし、着物を乱した白露(しらつゆ)へ視線を流した。  ため息を吐きながら首を振った朝霧が、呆れ顔を向けながら、   「どうして遥風(はるかぜ)をあんなに怒らせたんだい?」  視線が合うと、容赦なく白露を射竦めた。   「──遥風さんが……僕の鏡を隠したんだ」  臆々(おずおず)と白露は説明した。 「──『わたし』だろ? 『僕』なんて言うんじゃ無いよッ」  語尾を舌打ち混じりの、苛立たしさで朝霧に指摘され、白露は肩を竦めた。   「これで三回目だもの。『(みかど)』に頂いた……大事なものと知ってる癖して──」   「あんた、まさか遥風を、泥棒呼ばわりしたんじゃあるまいね?」  白露の言葉を遮った朝霧は、目尻を吊り上げると、上唇を歪めた。   「……返してくれないから……」  言い訳を口にした白露だが、鋭い口調で名前を叫ばれ、直ぐ様『ごめんなさい』と、肩を竦めた。   「あんたを贔屓にしてくれた、『帝』は死んだんだよ……」  朝霧の口調は、慈愛を含んで穏やかなのに、白露は殴られたように項垂れてしまった。   「分かるだろ? ここじゃ『買われてなんぼ』なんだよ。お客のつかないあんたは、雑用するか、徒花達のご機嫌とるしか無いだろう?」  言い含めるように、朝霧は口にすると、懐から取り出した手拭いを、白露の膝の上へ投げた。   「泣くのはおよし。『帝』には恩がある、あたしの目が黒い内は、あんたの面倒はキッチリ見る。悪いようにゃしないよ」  手拭いを握り締め、目許に当てた白露のうらぶれた様子へ、目を当てながら、朝霧は在りし日の『帝』を偲んだ。
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