僕に咲いてる綺麗な花

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   僕は生まれながらに頭に花が咲いている。  五つの花びらがあって、花びらの色は鮮やかなピンク。かなり綺麗だと思う。抜こうとしたこともあったけど、抜けなかった。痛すぎる。だから諦めたのだった。でも、別に損はない。  なぜならみんなには見えていないからだ。  修学旅行の写真にも、学生証の写真にも僕から見ればばっちり写っているけどね。  家族や友達にも僕の頭って花生えてね?と聞いてみた事があるが、みんな僕をまるで変わり者みたいに見るから諦めた。  帽子は少し被りにくいし、頭も洗いにくいけど、これといって大きなデメリットはない。  毎日綺麗な花を見れるし、むしろ良いのでは。と最近は思っている。    ある日、家のインターホンが鳴った。  いつもは知らない人が来た時は出なくていいと過保護な母に言われていたが、今日はつい出てしまった。  なぜかって?  その人の頭にも花が咲いていたからだ。  僕がドアを開けると、そこには同い年くらいの女の子が立っていた。 「はじめまして、隣に引っ越してきた。佐藤です」 「はじめまして。高橋です。えっと、佐藤さんは高校生、ですか?」僕は尋ねた。 「そうです。東高校に転入する事になった高校二年生です」 「僕と同じだ!嬉しい!仲良くしようね。 でも、高校生で一人暮らしなんて珍しいね」 僕がそう言うと彼女は悲しそうに 「親に捨てられたから」そう答えた。  これ以上は聞いてはいけないと思い、話を逸らした。 「そういえば、佐藤さんって、頭に花生えてるよね? もしかして、僕のも見えてる?」 そう僕が聞くと彼女は 「ええ、もちろん」 そう答えた。  僕は自分の花を見てもらえてなんだかとても嬉しかった。 「君の花、素敵だね」僕がそう言うと彼女は「あなたの花の方が綺麗よ」そう言って少し寂しそうに微笑んだ。  僕らは次の日一緒に学校に行った。 どうやら僕らは同じクラスだったらしい。なんにせよ、今日は気分がいい。なぜかって、僕の花を褒めてくれた人に出会えたからだ。花が咲いていることは少しだけ恥ずかしかったけど、この花はとても綺麗だから、いつか誰かに自慢してみたかったのだ。  彼女は職員室へ向かい、僕はいつも通り教室に入った。しばらくすると、先生が来て朝のホームルームが始まった。「今日は転校生を紹介する」先生がそう言って、佐藤さんが教室に入るとクラスがざわついた。それもそうだ。僕は花にばかり気を取られていたけど、彼女はかなりの美人だった。僕も彼女とは昨日会ったばかりだけど、花が咲いてるのもあって、どこか親近感があった。 「はじめまして。佐藤です。えっと、、、」  そう言うと彼女は気まずそうに言葉を続けた。 「私は、その、頭に、は、花が咲いているのですが、えっと、気にせず仲良くして欲しい、です」  僕は驚いた。  彼女はみんなにも花が見えていると思っているらしい。僕は面白くて笑ってしまった。  声が漏れてしまっていたのに気づき、周りを見るとみんなの表情が固まっているのがわかった。  一体どうしたというのだろう。  先生はなぜか慌てたように彼女と教室の外に出て行き、すぐに戻ってきた。  そして、何事もなかったかのようにホームルームが終わった。  休憩時間に入ると、すぐに佐藤さんは僕の方に近づいてきた。改めて見ると彼女はとても綺麗で、心臓がばくばくした。 「ねぇ、どうしてこの学校で頭の花の話をしてはいけないの?」彼女は不思議そうに聞いてきた。僕は、なんだそんなことか。と思い、呆れたように、でもみんなには聞こえないように、小声で返答した。 「それはそうだよ。だって、みんなには見えていないんだから。先生も君をおかしな人だと思ったから廊下に呼んだんだろ?」   僕がそう言うと彼女はこう返してきた。 「ううん。先生にこの学校では花の話をしてはいけないって言われたの。誰も気にしてないからそんな話をする必要はないって。君達も普通の人間だからって、そう言ってたよ。」  僕は頭が追いつかなかった。 「何言ってるんだ?この花は僕たちにしか見えていないんだよ?」僕が少し早口でそう言うと、彼女は眉をひそめた。 「何言ってるの?この花はみんなに見えてるのよ?ニュースでもよくやっているでしょ?頭から花が生えて生まれてくる人がいるって。私の親は私の頭に花が咲いてるから、私の事をもう人間じゃないって捨てたのよ。見えてないわけないじゃない。」  僕はまだ信じられなかった。  今日の授業はほとんど何も覚えていない。僕は下校のチャイムが鳴ると、誰よりも先に教室を飛び出して家に帰った。  家のドアを開けると母が 「どうしたの?そんなに慌てて」と言った。 僕はその問いには答えずこう言った。 「ねぇ、僕のこの花、見えてるんだよね! ねぇ、お母さんどういうこと??」 母は悲しいのか怒ってるのかわからない表情で僕の元に歩いてきた。 「今日友達にニュース見せてもらったよ。なんで、いつも僕の家は録画でしかテレビを見ないのか不思議だったけど、こういう事だったんだね。ねぇ、どうして教えてくれなかったの?」 僕がそう言うと母は泣き崩れてこう言った。 「あなたに普通の人間になってもらいたかったからよ」 「え、」 僕はその言葉しか出てこなかった。 「頭に花が生えてる人なんて地球に数人しかいないのよ、そんなの普通じゃないでしょ?あなたには普通になって欲しかったの。だから、あなたと関わる全ての人に花について触れないように注意したわ、学校の先生にも生徒にも、近隣の方々にも、町内会でもこの事を徹底させたわ。ここは小さな島だから、あなたが外に出ない限り、あなたは自分を普通だと思える。だから、修学旅行にも行かせなかったし、遠出もあまりしなかったの。わかるでしょ?」  母はそう言ったけど、僕には全然わからなかった。  普通って一体なに?  人と違ったらもうそれは普通じゃないの?  ねぇ、お母さん、僕はね、僕たちはね、花が生えてるからって見捨てて欲しかったわけでも、嘘をついて欲しかったわけでもないよ? ただ、本当の姿を受け入れて欲しかっただけ。確かに花が生えてて少し恥ずかしかったけど、 嫌だと思ったことは一度もないよ。  だってこんなに綺麗な花なんだもん。  もしみんなに見えていたのならそのありのままの姿をそのまま受け入れて欲しかった。確かに、こういう人は多くはないかもしれない。でも、これもただの個性として受け止めて欲しかった。見ないふりを、見えないふりを、しないで欲しかった。お母さんは僕のためを思ってそうしてくれたのかもしれないけど、僕はこれを欠点だなんて思っていなかったのに、どうしてお母さんは否定しちゃったの?  ねぇ、どうして?  人と違ってたって、僕だって、僕だって、みんなと同じように個性を持ってる、普通の人間なのに。  僕はそう思いながら、ただひたすらに泣くことしか出来なかった。
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