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   冷蔵庫から深緑色の瓶を取り出す。赤ん坊を抱くように両手で抱え、古風な文字に目を落とす。  現在ホテル暮らしをしている一静の母親が、少しずつ飲んでいたものだった。  良くないとは思いつつ、けれどどうすることも出来ない、ぐちゃぐちゃと湿り気を帯びた、荒ぶる胸の内を掻き消すように瓶を傾ける。蜂蜜のような色が落ちてグラスを染めていく。 「はい」 「おっす、ありがとう」  無邪気な笑顔にホッと息を吐いて、早速梅酒に口をつける静空の隣に座る。一静は無言で全体重を預けるように静空に凭れ掛かった。 「おっと、どうした? 甘えた期かい?」 「……」  特に慌てる様子もなく、コツンと音を立てて、静空は透明の器を床に置いて促す。  一静は目を瞑り、心音のないひんやりとした体に安堵を覚える。それは出会った時から感じる不思議な懐かしさ故か、漠然とした、けれど大きな不安故か、一静自身にも分からなかった。 「親と、仲良かったの?」  どうして雨の降る日にしか会えないの。  その問いは声にはならず、代わりの、けれどそれもまた聞きたいことだった。 「悪かったよ」  普段と変わらない声を聞いて、自分はどんな答えを求めていたのだろうと一静は思った。 「うちは勉強が出来なくて、親の期待にも全く応えられなくて。あぁでも逆だったのかな? 期待に応えたいと思ってたから、勉強が出来なかったのかも。親からの圧力って怖いからね」 「……」 「でも、どんなに頑張っても認められないのが一番怖かった。嫌だった」  平然と、静空は言う。どんなに想像しても、一静には想像に過ぎないことだった。  親から認めてもらえるのは、嬉しかった。一静は、その嬉しさしか知らない。けれど、今もそうであるのか、答えが出ない。
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