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「灯さん、誕生日おめでとうございます!」
桜がそう言って私のグラスにカチンとジョッキをあてた。
「まだおめでとうだぁねぇ」
橘先輩も、軽くグラスをあててくれる。
「ぎり二十代です。ありがとうございます」
応えて軽く頭を下げた。
「二十代最後のバースデーなのに、私たちとご飯ってごめんねぇ」
先に店に来ていた橘先輩は少し酔っているようだった。
障害児のための放課後デイサービスーーそんな仕事に正職員として携わっている。
橘先輩が結婚退職したとき、私が代わって堀江教室と桜川教室の管理者になった。あれは結婚して一年半経った頃だ。夫が名古屋に転勤になったのはその少しあとだった。
桜が入社してくれたのもあの頃だ。最初は父兄に使う尊敬語と謙譲語の違いもわからなかったのに、今では父兄も、歳上のパートスタッフも器用にいなす頼もしい存在へと成長している。
桜川教室の元管理者だった橘先輩が、パートスタッフとして戻ってきてくれたのは半年前。ご主人と離婚して、今は会計士の資格を取るために学校に通いながら手伝ってくれている。
「社会復帰する」という話を聞いたとき、ぜひ戻ってほしいと部長と一緒にお願いに行った。「正職員として戻る気はない」ときっぱり断られたけれど、「再びの学生の間、アルバイトとして手伝うなら」と言ってもらって現在に至っている。
橘先輩も重々承知されている。福祉の現場はいつだって人手不足だ。
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