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 今日、約束の時間に遅れたのは、先月入った児童の支援計画書を桜が書き直していたからだ。管理者として今日中に確認して印を押さなければいけなかった。年に一度の誕生日であろうが提出先の行政は待ってくれない。 「助成金を下げることはすぐに決めて着手できるのに、現場を支援することにはなかなか腰を上げないし、着手しない、それが行政だよね」  橘先輩はそう言ってグラスに口をつけた。 「だからずっと人手不足なんですよ。老人も子供も福祉に関わる仕事は、体力も精神力もいるのに収入が低い。志だけじゃ続けられないですよ」  桜もジョッキのビールをぐびぐびと飲む。 「桜ぁ、辞めないでね」  懇願するように言った私に、桜はにこりと笑ってから 「志、まだ元気です。それに子供たちかわいいですし」 と、ほっとする一言をくれた。  確かに子供たちの命を預かっていると言っても過言ではないのに、この業界で働く者の収入は低い。  そのことが気にならなくなったのは、瑛太と結婚してからかもしれない。生活のことは考えずに、志を追求できるようになった。 「人を助ける仕事じゃないか。志、追求すればいいよ」ーー瑛太はそう言ってくれた。  結婚して一年半、瑛太の名古屋支社転勤が決まったときも、「状況的について行けない」と言った私に「三年で戻れるから」と彼は快く単身赴任を承諾してくれた。  
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