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「今日くらい会えたらよかったですのにね」
私が瑛太のことを考えたことを、桜は気づいたのかもしれない。
「明日も仕事だからね」
と答えた。
「でもさあ、自分たちの幸せ優先した方がいいよ。会社にギリだてしなくてもさ。ついていけばよかったのに」
橘先輩の言葉尻を捕まえて、
「バツイチとは思えないセリフですね」
なんの遠慮もなく桜が言った。
「桜、死刑。そんな時代もあったのよ、私たちにも。でもだんだん昔、母が言ってた『亭主、元気で、留守がいい』って言葉の意味がしみじみわかりだすの」
桜の悪気ない直球に慣れている先輩は、うまく受け流して大人の対応をする。
「なんですか? 元気で留守がいい? ウケる」
桜は笑いながら、言ってメニューを取った。
「あっ、ごめんなさい。私、そろそろで」
桜におかわりを聞かれて、そう答えた。
「どうして? 主役なのに」
不服そうではなく、不思議そうに言った橘先輩に
「21時に電話くることになってるんです」
と答えた。
「ここで出ればいいじゃないですか」
桜はやはり直球だ。
「それはハズいよな。仕方ない、桜と私は二軒目に行くから、電話でデレデレしてください」
橘先輩のそんな助けに、「ありがとございます〜!」と大袈裟に頭を下げた。
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