1 3月13日

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1 3月13日

 その家は南北にまっすぐ伸びた道路の東側に面して、ぽつんと心細げに建っていた。家々が建ち並ぶ住宅街の中にあるにも関わらず、孤立して見えたのは、家の左右が開けているからだ。右隣は、奥まった位置にある雑貨店(看板だけで、明らかに営業していない)の駐車場になっていた。左隣は、老人ホームへのエントランスになっていて、建物自体は家の裏手にあたる位置まで引っ込んでいた。結果、その家は左右に寄りかかるものが何もなく、側面の外壁を晒している。その様子が、いかにも寂しげに見えたのだ。 「木造モルタル二階建て、3LDK、築34年の物件です。築年数は古いですが、最近リフォーム済みなので、見た目も強度も問題ありません。ほら、きれいでしょう?」  不動産屋の営業マンが言った。  正面に立って、香織は家を見上げた。シンプルな家だ。白壁に大きな茶色いドア、緑の窓枠の窓、そして青い三角屋根。家の造りは古めかしいが、決して老朽化した印象はない。レトロな造りは、むしろ最近の四角い家より好ましく思えた。玄関へ続く二段の短い階段は薄茶色のタイルで覆われていて、それも香織の目をひいた。  端的に言って……私はこの家が好きだ、と香織は思った。
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