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押しかけた王弟
わたくしは今、屋敷の小さめのティールームで王弟閣下と向き合っております。こうしてこの方とお茶を飲むのはもしかして初めてじゃないでしょうか?何度か手紙ではやりとりしていましたけれど、こうして目の前にしてみると、随分印象が違いますわ。
「アンナマリー、いや、マリー、そう呼んでも構わないかな?…マリーは私が王弟だと分かってびっくりしたかい?」
わたくしは顎に指を這わせて考えました。そしてこの際、正直なところを言っておいた方が良いかもしれないと思いましたの。
「ええ。わたしくが相談していたのは、いかにも胡散臭い、遊び人という噂のポータント伯爵でしたから。まさか王弟閣下だとは露ほども思いませんでした。
でも結局その方が良かったのかもしれませんわ。世間を面白がる様な伯爵だからこそ、わたくしは人に言うのを憚るような事も手紙に書けましたし。ふふふ。もし閣下だと分かっていたら、手紙さえ書かなかったでしょう。
実は閣下から頂いた助言は、とても参考になりましたの。お陰でお試し数も増えましたわ。でも、思うんですの。いくらお試しを繰り返しても、こう、これが本物だという確証は一向に掴めませんわ。
口づけられて、うっとりとするのは本当ですわ。でも、夢に思い描くほどのものは、どなたも与えてくれません。愛というのは落ちるものではなくて、育てるものなのかもしれませんわね。」
わたくしが独り言のような事を言って、紅茶をひと口飲んでから閣下を見つめました。閣下は瞬きもせずにわたくしを見つめていました。わたくしが眉を顰めるとハッとした様に咳払いをして言いました。
「…今のマリーの言葉は私の心をえぐるものだった。私は自分がこんなにいい年をして、君ほど物が分かっていないのではないかと思い始めたよ。
確かに戯れにその場を楽しむばかりの戯れ合いは、真実の愛など産まない。それは経験の多い私はよく知っている。そこで相談なんだが、私と真実の愛が生まれるかどうか、愛を育ててみないか?」
王弟は私をじっと見つめて仰いました。私は最近のお試しでも少し先が見えなくなっていたので、これも何かのご縁かもしれないと、にっこり笑ってお返事をしました。
「…ええ。良いですわ。ただし、わたくしはお試しをやめる気はございません。それが王弟閣下の願いでも。それでも宜しければ構いませんわ。」
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