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ジュアス様の仰ることには
私はこんなにあけすけに心の内を言うべきではないと分かっていました。16年もの間、淑女たれと育てられ、教育を受けてきたのですから。ですが、もう一人の自分がそれを越えて私の口を使って主張してしまいます。
私は覚悟してジュアスの様子を伺っていました。しかしジュアスは困惑した様子は見せるものの、私の話を最後まで静かに聞いていました。
しばらく静かに見つめ合っていた私達でしたが、ジュアス様は立ち上がると窓際まで歩いていかれました。そして振り返ると私を見つめて仰ったのです。
「私はうら若い君に、チャンスをあげようと思う。私が君を手に入れようと思ったら、どんな手段を使ってでも手に入れることは可能だ。だがそれでは、君は一生、私ではない誰かが運命だったかもしれないと考えるだろう?
それは私にとっても、君にとっても不幸な事だと思う。だから君が誰を本当に好きなのか、一緒に居たいのか考える時間をあげようと思う。今から1ヶ月、私達は一切の連絡を取る事なく過ごそうではないか。その間、お小言も説教もなしだ。
だから君は自由に羽ばたいてくれて良い。それについては文句を言わないと約束しよう。」
わたくしは、ジュアスの言葉にポカンとしてしまいました。酷い叱責か、そう、お小言、あるいは二度と会うことがないかもしれないと覚悟していたんですもの。私は心のどこかで安堵のため息をついて、ちょっとだけ寂しさも感じつつ、ジュアス様を見つめました。
「…ジュアス様はそれでも宜しいのですか?」
ジュアス様は感情の読めない表情で微笑むと、頷きました。
「ああ、私も散々浮名を流してきた身だ。マリーの気持ちも分かるよ。最後に君と口づけを。これが最後にならないと良いのだが…。」
そう言うと、わたくしに近づいて手を取ると立たせて抱き寄せました。思いの外力強い抱きしめ方で、私は思わずジュアス様を見上げました。ジュアス様の眼差しはいつもの軽々しさはなくて、体の奥が痺れるような力強いものでした。
「アンナマリー、私は君の幸せが一番の願いなんだ…。さあ、最後の口づけを。」
そう言うと、私を貪るようにくちづけました。
いつもの様な甘くて優しい口づけではなくて、私に刻印するかの様な容赦のない口づけは私をあっという間に訳をわからなくさせてしまいました。気がつけば私はもっとジュアス様が欲しくて、舌を突き出してジュアス様に追い縋っていたのです。
突然ジュアス様に引き剥がされた私は、ふらついて立っていられませんでした。ジュアス様は苦しげに私を見つめると、ひと言呟いて立ち去っていきました。私はその後ろ姿を扉の向こうへ消えるまでただ茫然と見つめ続けていました。ジュアス様の残した言葉を胸の奥で繰り返しながら。
『真実の愛は目の前に有るかもしれない。見ようと思わなければ見つけられない。』
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