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落ち着かない日々
私がジュアス様に突き放されたあの日から、私はパッタリと出歩かなくなりました。何だか、全くそんな気になれなかったのです。心配げに私を見守る家族の眼差しが、ひどく鬱陶しくて、私は今日も昼からベッドに身を投げています。
最近頭の中をぐるぐると回っている考えに、私は真っ正面から向かい合うことにしました。
私の脳裏に浮かぶのは、最後に言葉を交わしたジュアス様の苦しげなあの表情でした。ジュアス様はどうしてあんな顔をなさったのかしら。そして、どうして私はそれがこんなに気になるのでしょう。
私は、お試しの結果を報告するお相手がいらっしゃらないから、お試しをやめたのかしら。私は誰のためにお試しをしていたのかしら。自分のためだと思っていたけれど、違ったのかしら。
私は今日もドレスを脱ぎ捨てて、ベッドに潜り込みました。考えても分からない時は眠るに限るわ。そう思ってベッドの住人になったつもりなのですけれど、目を閉じると私はあの方の優しい口づけを思い出します。そして最後の口づけも。
不思議なことに、あんなに羽目を外したと思われるロビン様の口づけは、全然思い出せないのです。私はもう自分の気持ちも分からなくなってしまって、今度こそ微睡んでいきました。
ふいに私を呼びかける声がして、私は夢の狭間から現実へと引き戻されました。私は随分楽しい夢を見ていたに違いありません。口元が笑っているのですから。
私は自分の口元を指でなぞりながら、側に立って私を起こしていたであろうメイドのパティを見上げました。
「お嬢様、そろそろ起きて下さいませ。皆様がお嬢様が伏せっていらっしゃると誤解して、心配なさっています。」
私はそっぽを向いて呟きました。
「そうよ。わたくし、伏せっているんですわ。ですから、どなたとも会いません。」
パティはますます困り果てた様子で、オロオロしています。私は何もパティを困らせたかったわけではないので、渋々ベッドから降りると、もう一度ドレスを着せてもらって、身支度を整えて階下へ降りて行きました。
ファミリールームにはお父様をはじめ、家族全員が揃っていて、私を心配そうに見つめます。私は半分うんざりして、半分心配をかけて申し訳ない気持ちで、首を傾げました。
「マリー、ここひと月ばかり出掛けないと聞いたが、何処か具合が悪いのかい?」
お父様が心配そうに私に尋ねました。私は同じように心配顔のお母様、アンソニーお兄様、そしてマイケルお兄様の顔を見回して言いました。
「わたくし、多分ジュアス様に失恋したんですわ。」
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