父の子への愛しい思い

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 その昔、ある親子が暗闇の中で激しい雨に打たれながら、村の奥にある家へ戻ろうと急ぎ足で向かっていた。 「着物がこんなに濡れちゃったなあ」  軒下へ入ると、卯之助は引き戸を開けて家の中へ足を入れた。右手で繋いでいるのは、まだ4つの男の子・耕太である。  板の間へ上がる前に、完全にびしょ濡れになった着物を脱がなければならない。  卯之助は、自らが身に着けた着物を脱ぐと白色の六尺ふんどし一丁の姿になった。ふんどし姿で身軽になると、そばにいる息子の着物を脱がせることにした。 「早く! 早く!」 「そうかそうか、早く脱がさないといけないな」  父親によって着物を脱がせると、耕太は麻の葉文様の腹掛け1枚になって板の間に飛び乗った。遊び疲れたのか、耕太は小さな布団の上に寝転んでいる。 「あ~あ、用を足さないで寝てしまったのか」  卯之助は、いつも朝起きた時の耕太の様子を見ているので困った顔をしている。  その予感は、次の日の朝に現実となった。 「父ちゃん、おねしょしちゃった」 「またやっちゃったのか」  腹掛け姿の耕太は、見事にやってしまったおねしょ布団の前で照れた顔つきを見せていた。そんな息子に、卯之助は優しい言葉で一言伝えるのが日課となっている。 「寝る前におしっこができるようにがんばろうね」  耕太のおねしょは治る気配はないけど、卯之助は焦ることなく息子の様子を見守ることにしている。
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