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少女漫画だったら、多分このタイミング。
小説だったら……うーん、わからない。
ちょっとだけ目を開けたら、目の前に彼がいた。傘の君。今日は緊張してない。覚悟が固まったみたいな、そんな顔。私が目を開けると思っていなかったのか、でもそんなに表情を変えずに私を見ていた。
対する私は、びっくりして声も出ない。
まじか。
もしかして、本当にタイムスリップした?
「今日こそは傘、貸してあげる」
固い声。視線は私から、私のすぐ側に移った。そこには、さっきまで無かった黒い傘。
一ヶ月前の、あの傘。
タイムスリップ、してないじゃん。
私が目を開けなかったら無理矢理にでも傘だけ置いておくつもりだったのだろうか。
やっぱり、彼は、優しい。
「……ん」
優しさと、傘を受け取って、私は笑ってみせる。
友人に見せるみたいな気軽さで、でもちょっとだけぎこちなく。
次のステップ。そんなものあるのだろうか。
でも、ちょっと駅まで、この人と歩いてみたい。
そんな気持ちだ。
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