0人が本棚に入れています
本棚に追加
一ヶ月経って、まだ心の隅っこに彼の緊張した顔と、振り払った時のショックを受けた顔。それが交互に現れて振り払うことが出来ない。
彼からしたら、ちょっとした優しさのお裾分けだったのだろう。私からしたら、それは仄暗いヨコシマな心を見透かされた気がしたのだ。
もしも彼と仲良くなれていたら。
どんな話をして笑うのだろう。
どんな表情で私を見るのだろう。
恋に落ちるのだろうか、それとも。
少女漫画ちっくなヨコシマを、彼に知られたような気がして。傘を持って私の妄想の世界を破ろうとしてきたそんな気がして。
どんどん彼の事を考えてしまう自分が嫌で、また気分が沈み込む。
「ちょっと、悩み事?」
「うーん」
「ここ数日ずっと暗いよ? 親とケンカとか?」
「うーーん」
「もう。煮え切らないなぁ」
友人は秘密を知りたい半分、勇気づけたい半分の感情で私のまわりをくるくる回る。天然で、周りの目を気にしない素直な行動だとは思うけれど、うっかり友人の足を踏みそうになるから、怖い。
「言いたくなったら言ってよね。じゃ、また」
そう言って友人は反対方向の電車に乗った。友人の姿が見えなくなるまで手を振って見送った。地下鉄はいつも空気が冷たい。
最初のコメントを投稿しよう!