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ゴオオと電車が通り過ぎ、しばらくすると私の目当ての電車がやってくる。二分間隔で来る電車。早いようで、遅い。
大量の人が吐き出され、それよりもちょっと少ない量の人が吸い込まれる。私もその一人。
「あ」
聞き慣れた低い声が聞こえた気がした。電車の入り口に乗りかけた足はそのまま、顔だけ少しずらす。
「え」
口をぽっかりあけていたのは、一ヶ月前の傘の君。
同じ路線だったんだ?
新発見に頭がじんわりと痺れて、でも体はそのまま電車に滑り込む。心臓が急に波打った。
気が付くと、ドアは閉まっていて傘の君は乗り込んできていなかった。乗り遅れた?
ガラスの向こうでなんとなく気まずそうに立っている彼は、チラチラこっちを見ながら恥ずかしそうにしている。
そんな姿を見ていると、私もなんだか恥ずかしくなる。こっちの心臓の音も聞こえてしまっているのかも。
色んな感情をまた見透かされないように、手を振った。ヒラヒラと力なく。まるで今までも、そうしてきたみたいに。
その動作を見た彼は、目を丸くさせて、それでも、ぎこちなく手を振り返した。はにかんだ表情は年下みたいにあどけなかった。
彼の動作を見てからコンマ数秒、電車は動き出す。二分後にまた同じ電車がやってくる。彼はちゃんと乗れるだろうか。
まだ心臓がうるさい。
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