昇降口のショート・ロマンス

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「あ、また悩んでる」 「やっぱわかる?」 「わかるよお。目とか、手とか、見ればわかる」 「こわ。ストーカーみたい」 「あんたと何年トモダチやってると思ってるの」  友人は相変わらず呑気で、わざと空気を読まないような口調で私の頬をつついた。  七月のセミは思ったよりもうるさくない。  夕方の教室はまだまだ赤くないし、まだまだ人はいっぱい残っていた。これから部活に行く人、塾に行く人、カラオケやカフェに行く人……いくつかのコロニーは目的ごとに全然違う雰囲気を醸し出していた。  私と友人のコロニーが一番覇気が無い。これから帰る私たちにワクワクも何も必要ないのだろう。 「今日は帰りに本屋に寄るから、ここで」  改札を抜ける前に、思い出したかのように友人がくるりと向きを変えた。一緒に下りた階段を駆け上がり、私の言葉も待たずに消えてしまった。  このいい加減さを見習いたくも思うし、直して欲しいとも思う。  いつでも私の心は正反対に揺れ動く。揺れるって、正反対のこと振り回される事なんだね。  こうやって友人が突然消えることに、不安があり、安堵もあるのだ。  
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