1.出会い

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1.出会い

彼女との出会いは突然だった うっかり繁華街を出歩いたら野次馬に 囲まれてしまって、 走って逃げ場を探していた レストランの前を通った時、 オープンテラスで 食事中の女性が助けてくれた 「こっちに隠れて!」 突然腕を引っ張られテーブルの下にしゃがんでしばらくじっとする 女性がテーブルクロスをかけて隠してくれた 「行ったみたいだけど、  まだ騒がしいから、暫く隠れた方が  良いかもしれません。  お店の人に個室を用意してもらうから  そこにいてください。」  「すみません。   本当にありがとうございます。   お言葉に甘えて少しお借りします。」 「あのー、お腹空いてますか?  軽く食事をお持ちしましょうか?」  「実はぺこぺこだったんです。   何から何まですみません。」 「気にしないでくださいね。  若い方が苦労されてるのを見たら  いてもたってもいられなくなって  しまって…」   「きっと有名な方なんでしょ。  ごめんなさい疎くて。」  「いえいえ、大した事はないんです。   知らない人の方が多いですから   普通です。」 「店長!案内してさしあげて。  あと食事もお出ししてね。」 何者なんだろうか、その時はただ ありがたくご厚意を受け取った 第一印象は 髪と瞳が美しい人 仕草がとても上品で色っぽかった 物腰の柔らかさから経験と奥深さを感じた この仕事をしてから恋愛経験は何度かある 同じ業界の女性で見た目はもちろん美しい人ばかりだ お互い忙しいのと、売れっ子は我慢が出来ないタイプが多く 長くは続かなかった 正直心に残ったエピソードは何もない 恋をすれば豊かになると誰かが言ったが 僕の心はならなかった それどころか理想と現実のギャップ から、さらに欲求不満になった 持てない事への渇望、遠い理想 お金はいくらでもあったが、 お金では手に入らないものばかり 欲しかった 結局いつももの足りなくて満たされない : コンコン 「入りますね」  「どうぞ」 「外は落ち着いたみたいですよ。  タクシーを呼びますか?」    「ありがとうございます。   何から何まですみません」 「来たらお呼びしますね。では…」     「あ!またお店にお邪魔してもいい   ですか?」  「あ!お名前お聞きしてもいい   ですか?」  「あ!このお店の方ですか?」  「あ!聞いてばかりですみません!」 「あ!何から答えたらいいかしら   ふふふ」 「私のお店ですけどいつもここにいる  わけではないんです。  でもまた来てくださいね。」 「名前はナミです」  「ナミさん…、私はユジュンです」  「もし嫌じゃなければお礼に食事を  ご馳走したいのですが、ダメですか?」 「ユジュンさん、是非!」 「私の名刺です、  いつでも連絡してください」  「社長さんですか!   お若いのにすごいですね」 「そんなに若くもないんですよ、  でもありがとうございます」  「メールか電話でまた連絡します。   本当にありがとうございました。」  「では失礼します」 タクシーに乗って 気持ちが高揚していることに気づく 素敵な人だったな… 何歳くらいだろう、少し年上みたい だったけど女性社長ってすごいな 僕でも知ってるチェーングループだ 何か強さが伝わる綺麗な目だったな どんな経験があってどんな人生をおくってきたのか… 気になる、知りたい ナミさんの向こう側にある、僕が知らない世界の経験、 様々な困難を乗り越えてきたであろう事を想像していたら、 一瞬で恋に落ちていた 早速名刺のメールに候補日を送る ===== 今夜は友達のジヨンと家飲み いつもベロベロになるまで飲むので 二人の時は専ら私の家だ 「可愛くて礼儀正しい青年だったわ」  「へーイケメン?どんな感じ?」 「目は大きくないけど切長でキリッと  凛々しくて」 「なのに笑ったら糸目になって、口を  大きく開けて笑うのがかわいいの」 「顔がとにかく小さくて一目でアイドル  とわかったわ」  「アイドルなの??どこのグループ?」 「それがわからないの。  でも追っかけに追われてたから  きっとそうでしょ。」  「どこのグループだろう?背は高い?   髪の色は?肌の色は?」 「落ち着いてよ。大したことないって  本人が言ってたし、  まだ有名グループじゃないん  じゃない?」  「き・に・な・る!世界のTKGだった   らどうする??」 「それは私でも流石にわかるよ~」 その時はどこの誰と調べる気にはならず、 次は私達の運命に任せようとゆったり構えていた しかしそれから1週間、連絡はなかった それはそうよ、アイドルは忙しいもの そのまま時は過ぎ、思い出す事も少なくなっていった ==== 名刺のメールアドレスに送ったはずだが返事がない! 「おかしいな。届いてないのかな?  電話してみるか?  会社に?最初に出た人に何て  言えばいい?」  「仕事メールに埋もれてるな、   社長でしょ?忙しいよ。   いつもお前が優先されると思うな   よ、アイドルさん!」 「そんな風に思ってないよ。  ただ連絡を取りたいだけ。」 いつも相談に乗ってくれるマルは業界 とは関係ない学生時代からの友達だ 率直に正直に何でも言ってくれる彼が いたから、 僕はこの業界でいくらチヤホヤされても 正気でいられたし、 真っ当な?生き方ができたと思ってる 狂ってしまう人は少なからずいる 売れない時代を経てヒットすると、 見える景色が激変して 入るお金も桁違いになる 周りの扱いが180度変わり、 気分はかなり良い ここで勘違いしてしまうとダメな事を歴史から学んでいた ただ、浮世と現実世界を行ったり来たりしていると 激しい落差から急に孤独を感じる 何万人という好意の渦に溺れていた 数時間から 急に一人になって なかなか興奮が冷めず 耳の奥では歓声が鳴り止まない 部屋で一人 物音ひとつしない静寂 一人だったと気づいた瞬間押し寄せる孤独 それは底なしで、 ただ耐えるしかない辛い時間 熱狂は嘘だったのかもしれないとさえ感じる ある人はギャンブルで、酒で、女遊びで、悪い金儲けで 熱狂を続かせようとする 頭に残る歓声、好意、視線 僕らは想像以上にそれらに依存している ただそれは日常に求めてはいけないもの 現実世界で熱狂を追い求めても満たされる事はなく ただ深い闇に落ちていくだけなのだ :  「電話してみたらいいじゃん?」 「会社の番号しかないんだよー」  「裏に携帯書いてあるよ」 「え!!!!」  「お前らしいな!   そんなに気になるなら隅々まで   見ろよー   抜けてるなー本当に」 「でかしたぞー!  本当にマルと友達でよかった!」  「はいはい 感謝して」 「・・・もしもし?」  「もしかしてもう電話してんの?」 「しー!」 「あ!ナミさんですか?  ユジュンです。覚えてますか?」 「連絡が遅くなりました。」  「あのー先日のお礼に食事をご馳走  したいのですが、  空いてる日はありますか?」 「…はい、僕の方はいつも空いて  ないので無理矢理時間作ります」 「わかりました、スケジュール調整して  また連絡します」 「あ!あとカトク教えてください!」 「ではまた連絡しますね。  はい、お休みなさい。」  「終わったか?連絡先聞いたのか?   約束取り付けたのか?」 「万事OK !いやーよかったよ  ナミさん全然怒ってなかったし、  大人の女性って感じ!」  「何歳くらいの人?可愛い?美人?」 「これだから凡人は嫌だねー  下世話なことばっかり言って」  「だってそこ重要だろ、どうなの?」 「マスクしてたから全部はわからない  けど、出てるところは全て美しかった」 「多分僕より少し歳上だけど  あの複雑な魅力は言葉では言い  表せないな…」  「じゃ歳上で顔はよくわかんない   ってことね」 「おい、どんなまとめ方だよ!」  「ま、よかったよかった。   久しぶりにウキウキしたユジュン   が見られて安心した」  「全く違う世界の人と交わること   は大切だよ、   良い関係になるといいな」 「まるーーー 愛してるーー」  頭を抱えてキスしてやる  「や・め・ろ!」 帰ったら急いでマネージャーに連絡して、スケジュール空けてもらわないと 多分再来週はインタビュー、コンサート のリハに練習と 盛りだくさんだったはず 怒られそうだな… でもこれを逃したら一生後悔すると感じる 直感だ あんな人には二度と会えない そんな気がした
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