0人が本棚に入れています
本棚に追加
島田は酔っぱらうと必ずといっていいほど学生時代自分がいかにモテたかを語りだす。もう今年30にもなるというのに、よほど10代の頃が楽しかったのか未だに過去の栄光を引きずって嬉しそうに自慢をしてくる「あの頃はヤバかったからね。しゅんも俺と同じ高校来てりゃおいしい思い出来たのにもったいない」なんてことを言いながら生ビールをグイグイ飲み上機嫌でいつも酔っぱらって笑っている。島田がいうには学生時代自分のファンクラブがあり後輩の女子連中が周りに寄ってきてしょうがなかったこと。彼女がいたのに他にセフレが何人もいたことなんかを自慢のネタにして毎回語っていた
そんなエピソードをしゅんはいつも聞いてるだけだったがさほど嫌でもなかった。金のないしゅんを見かねていつも奢ってくれる島田に対してのちょっとした接待のような気持ちでもあった。まぁでもしゅんだって自慢できる過去があるならとっくにしているのだが自慢できるような青春がなかったのだ。女にもモテなかったし何かを成し遂げたこともない、本当になにもなかった。「おまえはどうだったよ?」なんてたまに島田にふられても「いや、俺は特に、」と言葉を濁すことしか出来ずにいた
(一体俺の人生はなんだったんだろう?)
しゅんは最近よくそんなことを思って悲観的な気持ちになっていた
島田の話を聞きながら程よく酔いがまわってきたとき「おっす!」と軽く挨拶し、田所が合流してきた。田所はしゅんの隣に当たり前のようにどかっと座り店員を呼んで生ビールと焼き鳥盛り合わせを頼んだ。体格の良い田所が隣にきたことで圧迫感を感じたしゅんは「おまえあっち座れよ」と嫌そうな表情で田所に愚痴ったが「いいじゃねぇか、どこでも」とまったく気にせずに呟き残り物を漁っている
「今日は仕事だったんか?」
「ああ昨日長野の心霊スポットまで行ってきたから会社でその映像編集してたわ。」と田所は得意気な顔で答えた。それを聞いてしゅんが
「おまえんとこの会社いつもインチキ動画じゃねーか」とツッコむと
「うっせーな!いつもインチキだけど今回はマジの撮ったんだよ。」
と田所が返してくる。いつものお決まりのパターンだった
「ほんとかよ。前にお前の会社からでてるDVD みたけどさ・・なんだよあれこっくりさんやったら一緒にやってた女がおかしくなって叫び始めるベタなのとか、廃墟で白塗りの女が後ろに映って驚かすのとか明らかにヤラセだったし。まじで見ててしらけたわ。」「おい!あれだって需要あるんだぞ」「マジかよ。あんな子供だましで誰がビビるんだよ」「うっせーな!ビビるやついるんだよ。今回のはガチだから恐いぞ」「どうだかな。あんな作品出してる会社だし」「あんなって言うなや」「あんなじゃねーか」「お前見る目ないんだよ」「それはお前や」「いやお前だろ。お前の会社のDVD の評価大体☆一つじゃねーか」「まぁ素人の評価なんてあてにならないし」「何が素人だよ」「素人じゃねーか!」「素人しか見ねーだろ」と二人が散々けなしあっている様子を満面の笑みで聞いていた島田が「お前ら兄弟みたいだなー」と言って嬉しそうに笑っている。すると3人が気づかないうちに無愛想な店員が近くまできていたらしく「はい焼き鳥盛り合わせとビールお待たせしました」と田所が注文した品を適当にトンっと置いてそそくさと立ち去っていった。それを見ていたしゅんが「幽霊かと思ったわ」とぼそっと呟くと二人は聞こえてないのか無視して焼き鳥に手をつけ始めていた。しゅんは相手にされなかったので憮然とした表情でビールを飲んでいると「じゃあ今度は3人で心霊スポットいってYouTubeにでも投稿するか?」と田所が調子に乗って心霊ツアーを提案し余裕のふりして二人を見比べた。するとビビりの島田が「イヤに決まってるだろ。お前そんなとこばっかいってたら、絶対呪われるぜ」と即座に却下し「島田ビビってんなよ~、幽霊なんかに」と田所にでかい声で笑われていた
「別にびびってねーよ。」
「ほんとかよ(笑)てか島田はあいかわらず不動産で働いてるの?」
「そうだよ」
「不動産て実際どうよ仕事」
「いや大変だよ。」
「ノルマあんの?」
「うちはないよ。あるとこ多いけど」
「へーならいいじゃん事故物件とか紹介できんの?」
「いや俺マンション売ってるほうだから紹介はできんな」
「そうなの?なんだ事故物件で撮影したかったのに」
「バカかよ。やめとけって」
「バカじゃねーよ。しゅんはまだブラックバイトしてんの?」
「してるよ。」
「いつまでやんの?」
「わからん」
「仕事楽しい?」
「いやつまんねえよ。仕事って言ってもバイトだからな」
「めっちゃブラックなんだっけ?」
「そうだよ。残業しても残業手当つかねーし有給とれないし」
「やめればいいじゃんそんなとこ」
「まぁそろそろやめるつもりだよ。」
「そうなの?やめてなにすんの?」
「どうしようかな、」
「就職しないの?」
「うーん就職かぁ、」
そう呟きしゅんは気が重くなった。自分が就職するなんて若い頃は考えたこともなかった。じゃあ何がしたいか?自分に何ができるのか?と聞かれても別にやりたいこともなく何か天才的な才能もない気がした
ただ昔からお笑いや音楽や漫画などの面白いことや感動するようなものが好きで人よりそういうことに興味を持ち絶えず自分を楽しませてくれる作品を
探してきたというだけの社会で全く役に立たない自負はあった。
でもそれだけじゃ現実問題ただのフリーターである
だから自分がこの境遇を脱出するために何かしないとこのままじゃヤバイと
気ばかり焦っていたがただただ焦るだけで時間だけが過ぎていってしまってもう30歳のおっさんになってしまっていた。(ああ俺はこれからどうなるんだろう・・)全く予測がつかない将来のことを考え憂鬱な気分になりしゅんが固まっているところに島田が「海外行けば?」とまた無責任に適当なことを言ってきたから「海外かぁ~」と適当にしゅんは返す。すると田所が「なんかやりたいことないの?」と追い討ちをかけるようにまたバカな質問をしてきて「やりたいことか・」と呟きまたしてもしゅんは固まってしまった。すると早くもできあがってる島田が唐突に「セックスだろ?」と言って嬉しそうな顔でニヒヒと笑った。島田は酔っぱらうと周りに人がいても関係なく下ネタをデカイ声で発する悪癖がありそのたびにしゅんや田所は迷惑していた「おまえ声でけーよ」「いいじゃねーか。じゃあさ中学の女子でセックスしたかった相手ベスト3を言おうぜ」なんてことを勝手に提案し島田は一人で盛り上がり、しゅんと田所が「なんでだよ」「嫌だよ」と拒否しても
「いいじゃねぇかせっかくだし、じゃあ俺から言うから」と俄然乗り気で自分がセックスしたかった女子を次々と発表し始めた
もう中学卒業して10年以上たつのに今さらと二人は思っていたが島田はそんなこと気にする様子もなく嬉しそうに考えて
「3位は、んーっと、やっぱり倉マリかなエロい身体してたしフフフ」と
勝手に自分のセックスランキングをを言いいやらしくほくそ笑んでいる
その様子を見ながらしゅんが
「おまえ、倉マリ好きだなぁいつも言ってるじゃん」と呆れるように呟くと
「倉マリかわいいじゃん。多分倉マリ俺のこと好きだったぜ」といつものようにまた勘違い発言をして自慢をしてきた
「なんでだよ。倉マリ、後輩と付き合ってたじゃん。たしか、」
「えっ倉マリっていまなにしてんの?」
「なんか結婚したって聞いたな、」
「そうなの?相手は後輩?誰よ?」
「知らん。島田知ってる?」
「たしか高校の同級生だって」
「まじかー、」
「じゃあ純愛じゃん。」
「でもなんか離婚したって聞いたぞ」
「へーそうなの」
「島田ショックだった?」としゅんがわざとらしく聞くと
「まさか。俺高校からもっといい女と付き合ってきてるし」と言って強がるように島田は大げさに笑った。その後も中学の頃の話で一通り盛り上がり三人が三人ともけっこう酔っ払い結局島田に促されて自分のセックスしたかった女子ランキングを他の二人も発表してしまったが楽しかったからまぁいいやとしゅんも田所も満足していた。頃合いを見て島田が「そろそろ出ようぜ」と二人に言い会計を済まし外に出ると田所に至ってはふらついて倒れそうだった。そんな田所を見てしゅんがゲラゲラ笑っていると、島田がすっと気配を消ししゅんの近くにきて「隣のテーブルにいた二人組の女いたじゃん。あの二人俺のほうチラチラ見てきてたぞ絶対俺のこと好きだぜ」と真面目なトーンで耳打ちしてきてしゅんの右肩をパンパン叩いて笑っていた「マジで?」としゅんは聞き返したが内心(また島田の勘違いが始まった)と吹き出しそうだった 島田は毎回居酒屋で飲むたびに店内を隅々まで見渡しかわいい女がいないか密かにチェックし店を出ると、あの女俺にサイン送ってきたとかあの二人組俺のこと話題にしてるなどと勘違い発言を言ってくる痛い奴だった。ギャグで言ってるのかまじで言ってるのかわからないが、30歳のおっさん化している俺たちを見て若い女性が黄色い声援をあげるわけがなかったがしゅんは島田に話を合わせて「こっち見てきたなら誘えば良かったじゃん」と意地悪く返すと島田は少し考えるふりをして「うーん、ああゆう女はヤリマンぽいからな」等と言い訳し結局いつも何も行動を起こさないのである。そのくせしゅんに「あー、もったいない今しゅんが話しかけたら、やれたのに」と自分が行動できないことを人のせいにするのでたまにイラっとした。そんな島田を無視してしゅんは田所の様子を窺うことにするとだいぶ酔いがさめたのかいつもの調子に戻ってきて「このあと、どうする?」と二人に聞いてきた。「どうしよう?。てかいま何時だ?」
しゅんが右ポケットにいれているスマートフォンを取り出し時間を確認するとまだ10時前だった。
「まだ10時だって」
「まじで?全然時間あるじゃん」
「どうする?もう一軒いく?」
「島田どうする?」すると島田は少し考えて
「じゃあさ、ジャンケンで負けたやつがナンパするってのは?」とまたおかしなことをいい始めた「なんでだよ」「やだよ」としゅんと田所が咄嗟に断ると「いいじゃねぇか、さっき奢ってやっただろ」と島田は尚も強引に話を進めようとする
「それとこれは別だろ」
「そうそう」
「わかったじゃあ一回だけやろうぜ。」
「わかってないじゃん」
「ナンパなんかできないって」
「できるって。もしおまえらが女連れてきたら、次も奢ってやるから」
「まじで。」
「マジマジ。だからやろうぜ」
「じゃあ一回だけやるか田所」
「ああ、よし」3人ともナンパなんかできもしないくせに酔っ払い気が大きくなっているせいかなんだか出来そうな感じがしてついオーケーしてしまった。「よし、、じゃあ、いくぞ」と島田が乗り気でじゃんけんを始めようとするから「待って一回勝負だよな?」としゅんが慌ててルールを確認する「一回勝負一回勝負負けたやつが声かける」と島田が説明し「わかった」「よし、最初はグー、ジャンケンポン!」と三人が一斉に右手を出すと言い出しっぺの島田が負けてしまった。その直後「ギャハハハ島田の負け!」と田所が大笑いして喜びしゅんとハイタッチした。一方の島田はパーを出したまましばらく固まっていたがその後冷静を装い「声かけてくりゃいいんだろ?」と強がって駅前の雑踏の中に入っていった。その様子をしゅんと田所は遠くからニヤニヤ笑みを浮かべて「がんばれー」等と悪ふざけで声援を送り島田が女を連れてくるのを待っていたが肝心の島田はあれだけ威勢よく飛び出したくせに若い女性の前を何度も通りすぎながらも声をかけれずに行ったり来たりして挙動不審な動きを繰り返していた。しばらくその様子を見ていたしゅんはなんかかわいそうになってきて「もういいから戻ってこいよ」と島田にLINEを送ったが既読スルーのまま返信はなく、島田にも意地があるのかしばらくして覚悟を決め前を通りすぎようとした60代ぐらいのおばさんに「すいませんいま何時ですか?」と緊張した様子で時間を聞くというしょうもないことをし「声かけてきたぞ」と満足そうな表情で戻ってきた。「なんだよそりゃ」としゅんが呆れて口にすると「なんだよ。声かけたじゃねぇか。女性は女性だろ」「セーフだ」と島田は言い張り続け押し通そうとするので、しゅんも段々めんどくさくなって「じゃあもういいよそれで」と簡単に折れると田所もめんどくさかったのか「まぁ一応声かけたしな」と
あっさり同意した。
そのあと島田は自分が負けてナンパに行かされたことに納得いかなかったのか「もう一回やろうぜ」と二人をしきりに誘ってきて二人は渋々もう一度ナンパジャンケンをしてしまい今度は田所が負けた
そして田所も島田と同様、駅前をウロウロしながら声をかけれずに徘徊し
行くあてもないゾンビみたいだったが近くで路上占いをしている女性をみつけると「当たりますか~?」と震えながら声をかけその女性とぎこちなく少し会話をした後なぜかその女性の後ろに並び自分も真面目な顔をして
占い師に占ってもらっていた。その一部始終を遠巻きに見ていた
しゅんと島田は「あいつなにやってんだよ」「なんで占いしてんだよ」と口々に言い合って馬鹿にし20分後田所が「ナンパ大成功!」とかうそぶいてふざけた態度で戻ってきた時には「お前なにやってんだよ!」としゅんが冷たく言い放ったが田所は「いや、占い好きの男っていう設定だったからな、占いしないわけにはいかないだろ」とよくわからない言い訳をし「俺、90まで生きるらしいぞ」とどうでもいい自分の情報まで教えてくれた
「知るか!」「女はどうだったんだよ?」
「ああ、あの女か。あいつ俺が声かけたら迷惑そうな顔してそそくさと帰っていきやがったよ、あのビッチめ!」と田所は大げさにいらついた素振りをして何も悪くない女性を非難しチッと舌打ちした
それを聞いてしゅんが(おまえはピッグだろ)と心の中で突っ込んでいると
島田はなぜか頷きながら「そっかダメだったか~じゃあ次はしゅんがチャレンジしてみる?」といきなりしゅんに無茶ぶりをしてきた「なんで俺なんだよ」「一回やってみな一回」「やだよ。ジャンケンで負けたわけでもないのに」「何事も経験だって!じゃあもし女連れてきたら高い寿司奢ってやるから」
と島田はまたいつもの方法でしゅんを従わせようとする(こいつワンパターンな奴だな)としゅんは思いながらも、もし俺がナンパ成功したら二人ともどんな顔するだろうと考えたら急にワクワクしてきて俺ならいけるんじゃないかという根拠のない自信がふくれあがり「よし!しゃあねぇからやってやるよ。」と二人の前で偉そうな態度で了承すると「おー!!」と島田と田所が歓声をあげて盛り上がった。そしてしゅんが勢いよく駅前の人混みの中に入っていきターゲットを探し始めた。しかし友達から離れて1人になると急に緊張と恥ずかしさが押し寄せ戦意喪失して数分後には早くも後悔し始めなんで俺はこんな馬鹿なことをしてくるんだろうと自己嫌悪に陥ってきた。しゅんの前を通りすぎる集団やカップルや店員の客引きの幾多の会話を聞くと自分がナンパなんかしたらネタにされて笑われるような気がし、とても声なんかかけれないような弱気になってイケそうな感じの女性が前を通ってもタイミングを逸してしまうのである。仕方ないのでしゅんは助けを求めるように田所と島田のほうを振り向くとこちらの気も知らないで二人は会話をして笑っている(ダメだ、ギブアップはできない)
しゅんは気合いを入れ直すために駅の反対側に移動し二人の視界から消えていった。それを見ていた島田が「あれっしゅんどっか行ったぞ」と呟くと「トイレでも行ったんだろ」と気にする様子もなく田所が返す
「トイレか。てかあいつ声かけれるかな?」
「どうだろ でもあいつちょっとリミッター外れて暴走するところがあるからもしかしたらうまくいくかもな」「暴走してナンパするってこと?」「そう。普段おとなしい奴ほど、なにするかわからんからな。しゅんは暴走モードになったら声かけまくれるかも」「確かにな」と二人が雑談しながら
しゅんを待ち続けたが30分以上経ってるのに帰ってくる気配はなく「どうだ?」と田所がLINEを送っても既読にならない、すると田所がさっきの会話とは一変して「あいつ逃げたんじゃねーか?」と言い始めた
「マジで?」「だっておかしくね?もう30分以上帰ってこねーしあいつ絶対ばっくれたわ。あのやろう」「電話してみるか」そう言うなり島田が電話をかけてみたが繋がらない「ダメだつながらなん」「うわー、やりやがった!」と田所が叫びオーバーリアクションをとると島田が「どうする?」と言い「とりあえずしゅんはほっといてどっかで飲みなおそう」と田所はあっさり返し「そうだな。」と島田もすぐ同意した。その後二人はしゅんを置き去りにすることに決めてスマホでエロい店を探し始め近くに水着のガールズバーがあることが分かりそこに行こうという話になった。早速二人はその店に移動を始めるとしゅんから田所にLINEが送られてきた「ちょっと待って、しゅんからLINEきた」「なんて?」「俺はまだ終わっていない」だって「なんだよそりゃ?」と島田が首を傾げたあと田所がスマホで「どうゆうことだ?ナンパしてないのか?お前いまどこにいるんだよ?今から水着のガールズバー行くぞ!!」としゅんにLINEを返し「あいつにガールズバーいくってLINEしといたわ」と島田に伝えると二人は足早に水着のガールズバーに入店していった
その頃しゅんは駅前で路上ミュージシャンの唄を聴いて一人感傷に浸っていた。まだ若干18才だという彼女の歌が不覚にもしゅんの胸にガンガン響いてきたのである その子が歌う横に置いてある空のギターケースの中に手書きで田川ゆうな18才弾き語りで全国縦断中と描かれたポップが置かれており
その隣には自主製作であろうCDが並べられて1枚500円で売っていた。18才でこの勇気と行動力に感心しながらしゅんは自分が恥ずかしくなっていた
あのあと駅の反対口に移動してナンパを試みたがまったくうまくいかず、ふと人だかりができている一角を興味本位で覗いたら意外にいい歌を歌っているかわいい子がいたのでなんとなくそのまま聴いていたら釘付けになってしまっていたのだった。そしてまたしゅんはいつものごとく自己嫌悪に陥り
(俺は何やってるんだろう・・18才の女の子がこんな一生懸命に夢を追いかけているのに自分は酔っ払って、出来もしないナンパなんかしている俺はクズだ死んじまえ!おまえなんか生きてる価値ないよ。死ね死ね死ね死ね
いや死んでどうする?死んだってなにもならないじゃないか?自殺する奴は負け犬だ。俺はもう終わっちまったのか?いやまだこれからだろ。これからだこれから!まだこれからだ俺の人生は!そう思ったらいてもたってもいられず田所に(俺はまだ終わっていない)と熱いメッセージを送っていた。田所にしたら理解不能な内容であったが、しゅんはその時の気分で思ったことを口走ってしまうような自分勝手な奴なので他人の気持ちなど正直どうでもよかったので友達をいつも困惑させていた
「迷子の少女という曲でしたありがとうございましたー!」そう言って彼女が歌い終わるとちょっとした人だかりからパチパチとまばらな拍手が起こって数人がCDを買うために彼女に近づいていった。その購入者たちはほとんどおっさんで彼女のことを若い女でかわいいからという下心で応援しているように勝手にしゅんは色眼鏡で見てしまっていた、しゅんはそういう連中と同じように見られたくないと(俺は違う純粋に彼女の作品がいいとから買うんだ)と自分に言い聞かせ恥ずかしさを押し殺して勇気を振り絞り彼女に近づいていって震える声で「あっCD1枚ください」とボソッと呟いた
すると彼女はそれに気づき「ありがとうございます!500円です。」と言って満面の笑顔をしゅんに向けた。しゅんはドキドキしながらも冷静を装い「あっ500円 はい」と渡すと「これからも応援してください!」と彼女に目をみて声をかけられたのでしゅんは嬉しくなって好きになりそうだったが照れてしまいそっけなく「あっ。はい。」と答えせっかくの会話できるチャンスを逃してしまい、その場を離れ遠巻きに彼女を見つめながらスマホを取り出し田所と島田から送られてるLINEに目を通すくだらない内容ばかりだったが一応今の自分の場所を教えるために返信するとあと30分くらいしたら店出るから合流しようとメッセージが届いた
了解と返信しさっきと同じように遠巻きから彼女の歌を聞いて自分の前を通りすぎる人達を観察しながら時間を潰した。しばらくして酔っ払って上機嫌な田所と島田がしゅんを見つけ笑顔で近づいてきた「ビキニ最高~!」と叫びながらしゅんのもとへ歩いてきた2人に気の小さいしゅんはうろたえながら「静かにしろよ!」と制してあの子に聴こえてないか心配してキョロキョロ彼女のほうを何度も見てしまった「お前何やってたんだよナンパしたのか?」唐突に田所が聞いてきてから「したわ。ほらっ!」と言って
しゅんが先程買ったCDを見せる「なんだこれ?」と怪訝そうな表情を浮かべる二人に路上でまだ歌っている彼女の方をしゅんは指差し「あの子に話しかけて買った」と答えた「マジかよ!」「てかナンパじゃねーだろそれ」と自分のことを棚に上げて島田が批判してくる「お前に言われたくねーよ!」としゅんが返すと田所が「連絡先聞いたのか?」と鼻息荒く聞いてきた
「聞いてない」
「聞けよ!」
「でもインスタやってるらしいけど」
「フォローすんの?」
「フォローしてもなぁ」
「じゃあなんでCD買ったんだよ!」
「なんか良かったんだ。よあの子売れるぜ間違いない!」としゅんが自信満々で答える「ほんとかよ名前なに?」
「田川ゆうな18才」
「18才?ヤバいな」
「俺が目をつけてたの覚えといてや」
「なんだよそのプロデューサー目線は」そういって島田が呆れて苦笑していた。
「俺も何か行動しねーとな・・」と誰に言うでもなくしゅんが1人呟くと田所が
「とりあえず水着のガールズバー良かったから行ってみろよ」と言って笑った。
最初のコメントを投稿しよう!