ある雨の日のあなたと私

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 2人用の狭い会議室。  私と彼は、今、それなりに近い距離で向かい合って座っている。  ビルの外側に面した会議室。視線を数十センチずらせば大都会の景色が一望できる。仕事の合間に、ふとこの景色を見るときだけは、高層ビルのメリットを感じることができる。  今日は残念ながら、厚い灰色の雲が空一面を覆いつくし、大きな雨粒がガラス窓をコツコツと叩いている。こんな日に出社をしているなんて、私もあなたも不運。前日からこうなるってわかっていれば、在宅勤務に切り替えたのにね。 「雨、やみそうもないっすね」  あなたはたいして興味もなさそうにポツリと呟く。   「うん。昨日から分かっていれば良かったのになぁ。傘、持ってきました?」 「オレは地下鉄で濡れずに帰れるんで。三原さんは?」 「私は、今の季節は日傘を毎日持っているから大丈夫」  関係性の分かりづらい会話。  彼からすれば、私は1つ年次の高い先輩。でも、私にとっては上司。なぜなら、彼は我が社始まって以来の飛び級出世を果たしたから。もっと言うと、彼は1年留年しているから、年齢なら同い年でもある。複雑すぎ。  そんな関係性だから、私は彼に対して、どうしても敬語とタメ語が入り混じってしまう。  そうですか、と言う彼の声色は優しいけれど、何を考えているのかはわからない。感情が少しも読み取れない。
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