ある雨の日のあなたと私

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 私の目の前で頬杖をついている彼、大村直斗は、とにかく有能な私の上司。  常に冷静で判断を間違えず、部長からの信頼も抜群に厚い。  彼と私はずっと同じ部署にいたけれど、業務ラインがこれまでは重なっていなかったので、こうして上司と部下の関係として接点を持つようになったのは去年が初めてだ。  だからだろうか。私たちは2人とも、どこかお互いに対してぎこちない。  私にとっての彼は、とにかく隙も弱点もなく、その切れ長の目はいつも何かを見透かそうとしているように見えた。  正直私はずっと彼のことを怖いと思っていた。  私の方が年次が上だからと敬語で接してくるわりに、遠慮がないのだ。私が会議の中で発言したことに対して、 「それは違うと思いますね」 とバッサリ切り捨てられてしまったり、目を細めながらじっとこちらを見て何かを考えていたり。 ジャッジされている――。 私が優秀な人間なのかそうでないのかを、見定められていると思った。それは、なんの取り柄もなく凡庸な私にとっては何より怖いことだった。彼の視線は、私のふがいなさをまざまざと自覚させられるようで、痛かった。    でも、本当に不思議なことだけれども、私はいつの頃からかこうも思っていた。  彼に認められたい。よく頑張ったと微笑んでもらいたい、と。
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