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雨が降っている日は、僕は少しだけ窓を開けている。降り注ぐ雨の音を、静かに聞くことができるからだ。
雨だけが、日々違った音を聞かせてくれる。ざあざあと聞こえるときもあれば、ぽつぽつと聞こえるときもある。静かにしとしとと降る音も好きだ。傘に弾かれる雨粒は、ぱらぱらという弾けた音に変わる。
――雨だけ、音があるんだよ。
僕は雨音を聞くと、その彼女の美しい言葉と横顔を、いつでも鮮明に蘇らせることができる。
静かなアスファルトの夜道を叩く雨粒と、僕の持った傘に弾ける雨粒の音に包まれながら、まるで二人だけになったかのような世界を思い返して、僕の胸にあるこの記憶はしっとりと潤いを帯びていく。
今日の雨は夕方まで続くらしい。もう梅雨は明けたと言われていたはずなのに、今日からはまたしばらく、日中は雨が降ることが多くなるようだ。
世間ではそれを憂鬱に感じる人も少なくないだろう。その気持ちも僕には分かる。外に出るのには傘が必須になるし、洗濯物も干すことができない。気圧のせいか、頭も少し痛くなる。
でも、まだ止まなくていいよ。
僕はそうつぶやいて、写真のなかで笑う彼女に、かすかな微笑みを返す。
この雨が聞こえているうちは――――
この世界は、僕と君だけのものになるから。
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