姉からの助言

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「全てが全てあんたと似ている訳じゃ無いけどね。ただ、私の表情を読み取れる子なだけ。」 調子に乗るなと言って小突かれる。 随分と機嫌が良いようだ。 「まじか」 「まじ。流石に私の癖とかまではわかってないだろうけどね」 そこまでわかられちゃあ俺はもう用無しじゃないか。 きっと一緒に居るうちに色んな癖やらなんやらも、彼女さんは気が付いていくんだろうな。その度にきっと好きが増えて、時々イライラしたりもして、楽しく過ごすんだろうな。 姉ちゃんの顔の変化に気が付いたりあの姉ちゃんに見初められたからには、きっと一緒に居てすごく楽しい人なんだろうな。俺にとってのあいつくらい。 「そういう事か」 「何が?」 「姉ちゃんはいつも色んな人に誤解されて、何言っても傷付かないとか女神とか言われてんじゃん」 「まぁ、そうだね。」 俺はそれが嫌だった。 姉ちゃんは気にしなくて良いと言っていたが姉ちゃんの傷付く顔を見る度に胸が抉れるような気持でいた。 「やっと真の自分を分かってくれる人が来たって思ってるって事じゃないの」 「まぁあんたが言いたいことは良く分からないけどね」 「は?」 そこは分かるって言って欲しかったなんて言った所で意味はないか。 「そいつの存在に救われたんだよ。」 「だろうね」 「そいつはお前みたいな弱虫なくせしてお前よりも馬鹿なんだ」 思い出し笑いなのか、明後日の方向を見て姉ちゃんは緩く笑う。 なんて様になっているんだ。 「嫌われることを怖がらずに易々とやってのける。」 「すげえな」 素直に尊敬する。 「だろ?それで、後から色んな事を色んな奴から言われて傷ついて、馬鹿みたいじゃね?」 「寧ろ尊敬する」 そういう俺に姉ちゃんは目を細めて笑った。 それから少しして頷いて口を開く。 「そう、私はそんなところに惹かれたんだよ。」 「そっか」 「自分をしっかり持っていて、頑固で、繊細で、傷つきやすくて、人を嫌うことが出来ない、不器用なあいつにね。」 姉ちゃんらしさもあるいい話を聞いた。 姉ちゃんの繊細なところや不器用な優しさに気が付いてくれる人が現れたことに少し寂しさがあるのも事実だが、嬉しさの方が十分多い。 「なんかめっちゃ素敵な話じゃん」 「だろ?」 「うん」 姉ちゃんの話の余韻に浸ろうとしていたら珍しく少し大きな声で言ってきた。 「じゃあお前らの恋について教えろ」 「はぁ?聞いてないんだけど」 「言ってなかったからね」 「はぁ」 相変わらず俺様だ。 「ほら、早く早く」 「わーったよ」 渋々頷くと姉ちゃんは嬉しそうに頬を緩ませた。 俺はこの顔が結構好きだ。他人からしたら変化すら分からないかもしれないけれど。 「あいつと俺は中学の時から一緒でね。」 「へ~?」 「いじめられていた時唯一庇ってくれたり一緒に居てくれたりした奴なんだ。」 そう言うと姉ちゃんは唇を尖がらせるような雰囲気で不満を言ってきた。 「そんな奴いたって聞いてないけどな」 「言って無いからね」 「うっさい。で?」 「俺がぐれてた時もあったじゃん」 「非行に走りかけてた時か。」 あの時は俺の中でもやばい時期だったな。 「うん。途中でやめた理由が彼奴で。」 「あんなにぐれていつもの様に私に相談をしなかった剰え止める私や父さん母さんのいう事も聞かなくなった異常なお前の事を止めるとかだいぶすごい奴なんだな」 本当にぞっとする。あいつが居なかったら今頃俺はどうなって居たのか。 「そうだよな。あいつ、俺が不良たちと殴り合ってた時に割り込んできてね」 「負けてたの?勝ってたの?」 「多勢に無勢とはこの事かという位のぼこぼこっぷり。まじでひどかったな。」 思い出すだけで体の節々が痛い気がしてくる。 「あいつ俺の事殴った奴ら見てやめろって言ったんだよね」 「はぁ」 「そりゃあやめる訳が無くて。邪魔しようとするなら潰すぞってセリフに好きにしろって言って普通に攻撃受けてて。それからしばらくの間、なんでか彼奴動かなかったんだ。俺は心配だったんだけど、声掛けようとした瞬間に急になんか動き始めて」 「ほぉ」 面白そうなことになってきたと目を輝かせる姉ちゃんにため息をつく。 そこまで楽しい話のつもりではないのだが。 「吃驚する位あっという間にぼこぼこにして一緒に帰ろうぜって言って帰ることにしたのよ。」 「お前こそいい話じゃん」 「だろ?」 「ドヤ顔うざい。でさ、1個言いたい事があるんだけど言って良いか?」 「いいけど」 そう言うと急に不機嫌そうな顔になる。 今日はやけに情緒不安定だな。 「お前いじめられた時味方なんて一人もいないって言ってなかったか。私は味方みたいなものでも学校行ったらみんな見て見ぬ振りして敵ばかりだってさ」 「あー言ってたかも」 「そりゃあお前の彼氏が余りにも可哀想だけど」 「後から聞いた話、俺の事好きだったんだって。その頃から」 「一途だな」 ほぉというお爺さんのような相槌を打つ姉ちゃんを見て少しにやける。 キモいと言って一蹴されたが。 「だよね。それで、俺の事いじめてた奴らに思いっきり切れたことあるんだって。俺が転校してから。」 「まじか」 「うん。反省したかは知らないけど俺はすっきりしたって彼奴は言ってたよ。」 それ聞いた時にゃあトゥンクって感じだったな。 キュンキュンしました。涙も出そうなほど嬉しかったな。 「お前愛されてんな」 「そりゃあ姉ちゃんもだろ」 「当ったり前だ。」 「どこからくる自信だよそれは」 そういうところは尊敬する。 「お前昔さ、私と逆の性別がよかったって泣き喚いてたじゃん」 「泣き喚くって...まあね?」 「私もよく思ってたんだよ、実はね。」 少し遠くを見て顔を顰める。 嫌な思い出なのだろう。 「男だったら高嶺の花って言うより無表情なだけのノリの良い奴って言われたかもしれないって思って。」 「あーね」 確かに姉ちゃんは男前で顔も整っているから女子によく持てそうだ。 男子たちに嫌われるタイプでもなさそうだし。それが本当かは知らないけれど。 「でもさ、私たちがこう生まれてしまった以上それ以上でもそれ以下でもない訳であって。そう考えたら私たちの出会えた恋人も今の私たちじゃなきゃ会えなかったって思うとそれでいいんじゃないかって思えるよね」 「確かにそうだね。俺、今でも俺が女だったらって思う事あるけど、彼奴は今のお前が好きって言ってくれたし。性別が何だて言ってきたし、怖いもの無しだな。」 深い事を言う姉ちゃんはすごく好きだ。 姉ちゃんと一緒に深い事を考えるときが一番生きていると感じていた。今迄は。 今は彼氏が居るからな。 「やっぱ愛されてんじゃねーか」 「お前もな」 「そろそろした戻るか」 何時の間にか1時間くらい時間がたっていたようだ。 彼奴には悪い事をしたな。 「そうだね」 そう言って部屋を出るときに、ふと、今迄言えていなかった言葉が口から出た。 「姉ちゃんいつもありがとな」 姉ちゃんは驚いた顔をした後に優しく、少し照れたように微笑んで俺の頭を撫でてきた。 「おう」 俺はきっとこれからも姉ちゃんや母さん、父さん、そして、彼奴に沢山助けてもらって、生きていくんだろう。俺は本当に愛されている。 【完】
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