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「ねーねー」
「なあに」
「姉ちゃんってさ」
「なに?」
やけにためるじゃないと言って先を急かしてくる俺の姉ちゃん。
ゲームやっていて忙しいんだろうけれどもうちょっとましな反応してくれてもいいんじゃあないだろうか。いつもこんな感じで塩対応なのだが。
「彼氏いるじゃん」
「いないけど」
「え?」
唐突のカミングアウトに驚く。
この前まで付き合ったと言って自慢してきたのにすぐに別れたと言う事かと思い驚いた顔をすると、馬鹿にするなと言った顔をしてくる。
「恋人はいるけどね」
「まじ!?」
これはつまり彼女さんっていう事か。
「うん」
「彼女さんって事?」
「そうだけど、なに?」
相変わらず仏頂面をして聞いてくる姉ちゃん。
こんなことで驚く俺を馬鹿にしているような顔だ。
男の俺より男前な姉ちゃんが羨ましいよ。
「俺もさー?付き合ってるって言ったじゃん?」
「うん」
「彼氏でさ、」
「それが?」
驚いた顔すらもしないのかと思いながら口を開く。
「母さんが紹介しろってうるさくって」
「認めてくれるか心配って事?」
「その通りで、、」
姉ちゃんが呆れかえった顔をする。
この人に相談した理由はこういう事で馬鹿にしたりしないところなんだけれど態度にはやはり少しイラつく。
「お前が選んだ人間なんだ。他の人、それが家族であろうとお前の決めた人を否定する権利はないと思うけれど。その相手を信じて、自分を信じればいいだけの事だろ?」
「、そうだな」
「そんなことで悩んでいたらこの先なんも出来なくなるけど。」
にやりと笑って俺を見据える姉ちゃんに恐る恐る聞いてみる。
「どういうこと?」
「街中で手を繋ぐとか?特に男だと気にしていそうだしな。」
「よくお分かりで」
その通り。
あっちは繋ぎたいって言ってくるけど俺は周りを気にしてできない。
本当は手を繋ぎたいけれど。
「好きだと言う気持ちを胸張って周りに見せてやればいいじゃねえか。」
「そう、だよね」
「気にするのが悪い訳ではないけどな。私も最初はそうだった訳だし。」
「姉ちゃんが?」
「そーだけど?何か?」
俺が驚いた顔をするとイラついたように髪をガシガシとかく。
「そうなんだって吃驚しただけだけど。」
「私だって怖いものはあるさ。それでもそいつが好きって気持ちが勝った結果が今なんだけどね。」
「好きって気持ちが勝る。」
「おう。こいつは私の、俺のだって。周りに見せびらかしてやるんだよ。」
「見せびらかす」
オウム返しでしか反応のできない俺を見て窓の外を見ながら話す。
俺の話すときの癖も考えるときの癖も姉ちゃんは誰よりも分かっている。
「恋人じゃないって言ったとき、相手の気持ち考えてみろ。知ってても絶対に辛いだろ。」
「うん」
「だから、好きな人と世間体どっちが大切かで分かるんじゃないのか?」
「うん?」
納得のいっていない俺を見て大きなため息をつく。俺はどういう事か必死に考えるがあまりピンと来なくて首を傾げる事しかできない。
「だーかーら。恋人より周りの事の方が大事なのかって聞いてるんだよ。」
「恋人」
「だろ?」
「だったら、胸張って彼氏だって言えばいい話じゃないか。」
「あー」
少し意味が分かった。
「相手が嫌がっているならそれは仕方がないけどな」
「いや、寧ろ公表したがっているな」
「あーお前そっち側な訳?」
「まぁ、うん」
そういう事にしっかり気付いてしまうあたり姉ちゃんなんだよな。
俺がいじめられていたりしたときに気が付いたのも姉ちゃんだった。昔からずっと側に居た人だからこそ心を開こうと思えたし、悩みも打ち明けられる。
「あと、母さん、そんなこと気にしないんじゃないか?」
「母さんが?」
「あぁ。息子が幸せなことが何よりも嬉しいって思っていそうな顔してんじゃないかあの人。」
「母さんの事良くあの人呼び出来るな」
そんなことは今どうでも良いだろうと偉そうに腕を組む姉ちゃんに苦笑いをする。そういうところも彼女らしくて好きだけど。
「私の彼女の事紹介したとき、何も気にせずに受け入れてたけど」
「姉ちゃんの恋人のこと知ってたの!?」
「おう。お前が修学旅行行っていた時に家に連れてきたからな」
「そうなんだ」
俺の知らないところで色々あったのかと思って驚いた。
仲間はずれにするなと言ってぶーぶー行ってみたら案の定五月蠅いとキレられた。
「周りを見て見ろ。案外お前の事を思ってくれている奴は多いと思うぞ」
「そっか」
「そんなことで嫌がる奴はそこまでの奴だったってだけだ。何も世界に落胆しなくてもいい。」
「そっか。」
すっかり納得した俺はふむふむと頷いていた。
姉ちゃんに人生相談をしたのはこれで何回目だろうか。
そのたびにいつも助けてもらっている。なんだよと言いながらいつも最後までしっかり聞いて俺の考えを尊重しながらも強くなれるような言葉をくれる。
人を信じることが出来ないと思っていた俺の心を開いてくれたのは姉ちゃんだった。人との関係の良さや大切さを教えてくれたのも姉ちゃんだった。
「そっか星人になってないでさっさと恋人つれてきな。母さんと待ってるよ。」
「わ、わかった」
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