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「ママー!」
声がした方を見ると、ママが大きく手を振っていた。反対の手には陽介の手をしっかりと握って、こっちにやって来る。
「よぅ、すけ……いた…」
ほっとして力が抜けて、その場にしゃがみ込んだ。
あれだけ探して見付からなかった陽介を、ママがあっさり見付けて捕まえてくれていた。さすがママだなぁとほっとすると、今度は腹が立ってきた。勝手にいなくなって心配かけたのに、陽介は私が見えていないかのようにそっぽを向いている。
「陽介! あんたどこに……」
「ごめんね、ひなちゃん。陽介のこと、探してくれてたのよね?」
陽介を怒ったら、陽介の代わりにまたママが謝った。ちょっと気まずくなって顔を上げていられなくなって、下を見る。走り回っているうちにお気に入りのスニーカーが汚れちゃったのが、少し悲しかった。
「ママ。ごめんなさい……」
陽介は悪くない。ママも悪くない。陽介をちゃんと見てなかった、私が悪いんだ。
ママの期待に応えられなかった。言われたことをちゃんとできなかった。スニーカーが汚れてしまった。最悪で、悲しくて、また涙が出てきた。
「ううん。ひなちゃんは悪くないわ。陽介は、ママの言う通りにしただけよ」
「?」
言われた意味が分からなくて顔を上げると、にっこり笑顔のママと目が合った。
「陽介ね、ママを迎えに、トイレまで来たのよ。ママね、陽介に『公園は人がいっぱいだから、ママから離れないでね』て伝えていたの」
「えっ?」
陽介は、ほとんどおしゃべりできないけど、言ったことは大体分かっているのは知っている。だけど、そんなにしっかり理解しているとまでは、思わなかった。
「ママがトイレに行ったって分かってて、ママについて来ちゃったの。本当にごめんね、ひなちゃん。心配かけて」
ママのところに行くなら、そう言ってくれればいいのに……
陽介に、そんなこと出来ないのは知ってる。だけど、ママの言い付けをちゃんと守ろうとするなんて、そんなことできるようになったなんて、知らなかった。
「何? どうかした? 陽介」
私とママが話してる間ずっと、陽介はぐいぐいとママの手を引っ張っている。また、林の中で遊びたいんだと思っていたら、陽介が「しーしー」と言った。
「まあ、大変! おしっこ!」
慌ててトイレに向かって走る。だけど、ちょっと遅かった。トイレに着く前に、陽介はもらしてしまった。
「困ったわね。着替え、車の中なのよ……」
ママが車まで戻ろうと言っても、陽介はトイレの前から動かない。きっと車に戻ったら、家に帰ると思ってるんだ。だけど、濡れたズボンのままじゃ遊べない。
「仕方ないわね。車まで取りに行ってくるから、ここでお姉ちゃんと待っててくれる?」
「えっ?」
さっき陽介を見失ったばかりの私に、また陽介を預けるの?
信じられない気持ちでママを見ると、ママは少ししゃがんで陽介と目を合わすと
「陽介。ここでお姉ちゃんと待っててね。お姉ちゃんから、離れないでね」と言った。
陽介は返事をしない。ママの言ったことをちゃんと分かってるように見えない。だけどママは「すぐ戻るから!」と私に言い残して走って行った。
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