私の弟

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 私には、2つ下の弟がいる。私はこの弟、陽介が嫌いだ。 「ひなちゃんのおとうとって、3さいなのにしゃべんないね」  最初にそう言ったのは、仲良しの花梨ちゃん。花梨ちゃんには、3つ下の妹がいる。陽介より1つ下なのに、たくさんしゃべってかわいいって、いつも言っていた。 「ようすけくんって、赤ちゃんみたいになくんだね」 「ようすけくん、すごい声でさけんでたよ。見えないけど、声、すごい聞こえたー」 「ひなちゃんの弟って、へんだよね」  友達にそう言われるたび、恥ずかしくなった。  6才になっても、陽介はしゃべらなかった。なのに、泣き声はすごく大きい。突然、大声で叫ぶ時もある。6才なのに、陽介は赤ちゃんみたいだった。  陽介が大声を出すと、みんなすごく困った。ママは陽介を落ち着かせようとしてかかりっきりになって、パパは周りの人にぺこぺこ謝った。  悪いのは陽介なのに。パパもママも、何も悪いことしてないのに……  だから私は、陽介が大嫌いだ。 「陽菜乃、ごめんね。陽介と3人になっちゃって」 「いいよ。仕方ないし」  今日、陽介をおばあちゃんに預かってもらって、ママと2人で遊びに行く約束だった。だけど昨日の夜、おばあちゃんから足を捻ってしばらく陽介を預かれないと、言われてしまった。  陽介は、少しの間も目を離すことができない。気になるものを見付けると、ふらふらとどこかに行ってしまうから、誰かが付いていないといけない。足を捻ったおばあちゃんが陽介を預かれないことは、私にも分かる。だから仕方がなく、陽介と3人で遊びに行くことになった。 「今日は機嫌いいみたいだから、陽菜乃もいっぱい遊んでね」  車の後部座席の隣に座る陽介は、お気に入りの車のおもちゃを窓枠に走らせて遊んでいる。ママが言うように、今日は機嫌が良さそうだ。  このままずっと、1人で大人しく遊んでくれてたらいいのに……  今日は、すごく天気がいい。公園には、きっとたくさん人がいるだろう。人が多いところが苦手な陽介は、興奮して叫んでしまうかもしれない。そしてまた、ママに迷惑かけるんだ。  大型の遊具、大きな石の滑り台、すごく長いスライダー。どれもすごく楽しくて大好きだけど、陽介が一緒だと、楽しく遊べる気がしない。 「家にいた方が良かった」  口の中で小さく呟く。  陽介を悪く言う時は、小さな声で言うようにしている。パパもママも、誰かに陽介が悪く言われると、すごく悲しそうな顔をする。そんなパパやママの顔を見るのが、とても悲しい。  だから、絶対に聞かれちゃいけない。知られちゃいけない。  私が陽介を嫌いだってことを。
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