私の弟

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 ママがトイレに行っても、陽介は変わらず木の根元を掘っていた。何が楽しいのか分からないけど、それはかなりの深さになっていた。  ふと見ると、さっき私が乗っていたブランコには、他の子が乗っていた。小さな女の子で、お母さんに背中を押してもらってとても楽しそうにしている。  陽介なんか、いなくなればいいのに……  何度そう思っただろう。  陽介には、常に誰かが付いている。外はもちろん、家の中でも、誰かがずっと見守っている。  一方私は、結構ほったらかしにされている。 「陽菜乃は本当に、しっかりしているね」 「陽菜乃は1人で大丈夫よね?」  そう言われるようになったのは、いつからだろう?  小学校に上がってからは、先生にも「しっかりしてるね」「えらいね」と、言われるようになった。 「もう2年生だし、1人で行けるよね?」  初めてのおつかいは、おばあちゃんの家の近くのスーパーだった。少し怖くてどきどきしたけど、言われた物をちゃんと買って帰れた時は、すごく誇らしかった。 「さすがね、ひなちゃん。賢いねー」 「ひなちゃんは、しっかりしてるねー」  おばあちゃんは褒めてくれるけど、私と遊んではくれない。ずっと陽介の側に付いていないといけないから。  陽介のよく分からない遊びにはにこにこ付き合って、陽介が物を散らかしたら「散らかしちゃダメよ」て優しく言うだけで、絶対に怒らない。私が同じことをしたら、絶対怒るに決まってる。  おばあちゃんはきっと、陽介だけが可愛いんだ。  陽介がいなければ……  あんな風に、ママに背中を押してもらってブランコに乗れる。滑り台だって、スライダーだって、一緒に滑ってくれる。  きっとパパもママも、謝ってばかりじゃなくなる。  おばあちゃんだって、私と遊んでくれるかもしれない。もっと私の話を聞いてくれるかもしれない。買い物だって、一緒に行ってくれるかもしれない。    陽介がいなければ……  陽介がいなければ……  陽介がいなければ……
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