4人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
またママを追いかけて行くんじゃないかと思ったけど、陽介は動かなかった。トイレの前で私と並んで、ママが走って行った方を見ながら、ママが帰って来るまで動かなかった。
しばらくすると、ママが着替えを持って戻ってきた。
「陽介、お待たせ。ちゃんとお姉ちゃんと待って、えらかったね」
本当にえらいと思った。ママが私と待っててって伝えたら、大人しくちゃんと待ってた。
少し前なら、じっとしてないでどっか行ってしまったと思う。濡れたズボンが気持ち悪いって、うるさく泣いてたと思う。それに、陽介のおむつが取れたことも知らなかった。
今日は、知らない陽介をいっぱい知れた。
「陽介、トイレに入って。ズボンとパンツ、履き替えましょうね」
ママが多目的トイレのドアを開いて促すけど、陽介はトイレに入ろうとしない。合わない目をさまよわせて、私を見ていた。そこで、はっと気が付いた。
ママが陽介に私から離れないように言い聞かせてたから、私が見えないところに行くのが嫌なんだ!
「大丈夫。私、ここにいるから。動かないから。陽介、着替えておいで」
そう伝えると、やっと納得した陽介はトイレに入って行った。
私は、ママと陽介が出てくるまで、じっとトイレの前で待った。待ちながら、広い公園で遊ぶたくさんの人たちをぼーっと眺めた。よく見ると、みんな仲良く楽しく遊んでるわけじゃない。時々ケンカする兄弟や、泣いている小さい子もいた。
昔はあんなに妹かわいいって言っていた花梨ちゃんも、最近は妹とケンカばかりしているらしい。
『ハナが悪いのに、お姉ちゃんなんだからがまんしなさいって、いっつも言うんだよ! ひどくない? 好きでお姉ちゃんになったわけじゃないのに』
その気持ち、とてもよく分かる。私も好きで、陽介のお姉ちゃんになったわけじゃない。
でもパパもママも、私に「がまんしなさい」て、言ったことはない。陽介が私の物を勝手に取ったら、ちゃんと陽介に「ダメ! お姉ちゃんが使ってるでしょ」て、言ってくれる。でも泣き喚く声がうるさくて、すぐ貸してしまうけど……
それでも、陽介もずいぶん聞き分けが良くなった気がする。泣いたり叫んだりすることも、ずいぶん減った。何もできないって思ってた陽介も成長してるんだと思った。
最初のコメントを投稿しよう!