私の弟

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「ひなちゃん、お待たせ」  陽介とママがトイレから出てきた。陽介は私の手をつかむと、反対の手で林の方を指差した。あっちに行きたいらしい。 「陽介。お姉ちゃんは林には……」 「いいよ、陽介。一緒に遊ぼ!」  私は陽介の手を握り返し、林に向かってかけ出した。私たちの後をママが付いてくる。  林に着くと、陽介はまた、木の根元を小枝で掘り始めた。さっきとは違う木なのに、やることが同じなのが少しおかしかった。  少し大きな石を拾ってきて、陽介と同じところを掘り始める。陽介が私の石をじっと見るから「貸してあげる」と言って、渡してあげた。陽介は小枝を捨てて、石で続きを掘り始めた。 「ひなちゃん、遊具で遊ばなくていいの?」 「いいよ。今日は陽介と遊びたい気分なの」  手頃な石が見つからなかったから、代わりに見つけたちょっと太い枝で掘り始めたら、陽介が手を止め、私の持つ枝を見た。 「陽介。それは、お姉ちゃんの」  そう言われても、陽介は私の持つ枝をじっと見るのをやめない。  枝なんて、そこら辺にたくさんあるからあげてもよかったけど、ちょっと陽介にいじわるしたくなって「その石と交換ならいいよ」と言った。陽介は言われたことが分からないみたいで、ただじっと、私の枝を見る。  側で見ていたママが「陽介。石『どうぞ』して」と言った。すると陽介は、石を私に差し出して「どう」と言った。  陽介が、人に物をあげることができるなんて、全然知らなかった。びっくりしている私に、陽介は「どう、どう」と言って、押し付けるように石を差し出してくる。私は「ありがとう」と言って石を受け取り、代わりに枝を差し出した。陽介は、パッと枝を取ると、何も言わずに穴掘りを再開した。 「陽介、すごいね。いつの間に『どうぞ』できるようになったの?」  陽介から受け取った石をママに見せながら言うと、ママは「ひなちゃん、ありがとうね」と、すごく嬉しそうに笑った。  いつも謝られてばかりのママに「ありがとう」て言われて、すごく嬉しかった。だから私もにっこり笑って「どういたしまして」と答えた。  私は、弟が嫌いだ。みんなに迷惑かけて、心配ばかりかける弟が、大嫌いだった。  だけど今日、ほんのちょっとだけ、陽介がかわいいと思った。私の手を握ってくれて、私に「どうぞ」と言って石を渡してくれて。嬉しくて、ちょっとかわいいなって思った。  今度、私が何かを渡した時、ちゃんと「ありがとう」て言ってくれたら、すごく嬉しくて、もっとかわいいと思うかもしれないなぁと思った。  そしていつか、陽介のことを好きになれるといいなぁと思った。
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