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あの角を曲がったらすぐだ。
見慣れたハイツの前の角が見えると、気持ちが楽になってきてちょっぴり足取りも軽くなる。
家へと足早に歩を進めた俺の視線の先に、何か動くものが見えた。
「ん?」
角の手前の電信柱の脇で、何かが小さくうずくまり雨に濡れている。
既にしっかりと濡れており、毛が張りつき雫を垂らしている。
「おいおい、大丈夫か?」
俺の声にソイツは、今にも『にゃあ~』と声をあげそうなか細い目で俺を見上げる。
「どうした?具合でも悪いのか?」
返事もせず、ただ冷たい雨に震えるように自分の肩を抱き寄せ身を縮めた。
「んなとこにいたって風邪引くだけだ。俺ん家すぐそこだから…来いよ」
ソイツは俺の言葉にゆっくり顔を上げてくる。
俺だっていつもはこんなどこの誰だかわからないヤツに声を掛けたり、ましてや『家に来いよ』なんて軽々しく言わない。
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