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 秋月(あきづき)アリアには現在困っている事象がふたつあって、ひとつは恋人の佐原(さはら)孝生(こうせい)が先月死んでしまったということだった。  アリアは高校二年生の女子である。秋月アリア、なんて名乗ると、ずいぶんハイカラな名前だと思われるのが常であったが、正真正銘本名の純日本人である。派手な名前のせいで周りの人間からは顰蹙を買うこともままあったが、アリア自身は自分の名前を気に入っていた。母が命名してくれたものであったし、母譲りのはっきりとした面立ちにもスラリとした手足にもこの名前はよく似合うと思っていた。  アリアは中学二年生になるまで母と東京に住んでいた。母は若くして上京してアリアの父親と結婚し、しかし結局うまくは行かずアリアが物心つく前に離婚した。そのあとは職を転々とし、最終的には東京の暮らしすらもうまく行かないという結論にたどり着いて母の田舎にやってきた。人も建物もひしめく都会の街から、突然田園風景だけが延々と続く田舎の町に引っ越して、しかしアリアにとっては全く問題はなかった。そもそも原宿にも渋谷にもさほど執着があったわけでもないし、アリアにしてみれば母と一緒に暮らせれば別にどこでも良かったのである。  とはいえ、引っ越してきた当初は都会からの転校生ということで定番にいじめられはした。思い返すとずいぶんな扱いを受けたものだが、生来アリアは感情の表出に乏しい性質(たち)だったので、そのうち皆飽きてアリアに関心を持たなくなった。リアクションのないイジメほどつまらないものはないと早々に気付いてくれて良かったわ、と当時のアリアは冷めた心地で思っていたが、アリアもアリアで周りに興味がなかったのでそういったこと一切どうでもよかった。
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