花火夜

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 一体あの日何が起きたのか、正確に把握している者はいないと思う。いつも通りの毎日だった、いつも通りの夜だった。みんなでコンビニ前でしゃべったあとバスに乗った。進学校だから皆受験対策に必死だ、まだ高二なのに? と周囲からは驚かれるけど高二はもう追い込み時期だ。高校三年が追い込みとか遅すぎるだろ、とみんなで呆れながらバスに揺られていたあの日。  突然周囲から、世界から光が消えた。信号が消えて急ブレーキをするバスに、たぶんトラックがぶつかったんだと思う。バスが横転してあちこちから悲鳴が聞こえた。電線からは火花が散ってそこらじゅうで爆発や火事が起きた。まるで花火のように空におびただしい数の爆発。ただの停電じゃない、まるで雷が何十個も落ちたかのような……地獄が広がっていた。 「しっかりしろよ、真弓、圭人、花蓮!」  車体の下敷きになった真弓と花蓮と圭人、引っ張り出せるはずもなかった。うう、とうめき声がするのでかろうじて皆息がある。たまたま投げ出された俺と昌成は皆を助けようと必死だったがぶつかったらしいトラックが爆発炎上し、俺たちは吹き飛ばされた。 「ママ、ママ」  すぐ近くに子供の声がする。でも姿は見えない、真っ暗だからだ。あの日もそう、暗闇の中でできることは限られていた。荷物は吹き飛ばされて都合よくライトなんて持ってない。みんながパニックになり、助けを求め、走り回り、事故や爆発や火事に巻き込まれた。病院で助かるはずもない、電気がないからだ。 「ママ、どこ? 僕ここにいるよ」  俺のすぐ近くにいる女性らしき人がはあ、はあ、と息が荒くなる。たぶんこの子の母親だろう。のろのろと歩き始める。俺は、声をかけない。  わかっているはずだ。この子が、生きていないことくらい。二ヶ月経ったんだ。  あの日、バスに押しつぶされたまま焼かれた真弓と圭人と花蓮。爆発で吹き飛ばされて頭を叩きつけられた昌成。俺はあちこち怪我したけどかろうじて助かった。 「ねえ、空夜(くうや)どこにいるんだろうね」 真弓の声。 「諦めないで探そう、絶対俺たちの事も探してくれてる」 昌成……。 「ああ神よ、どうか我らを導き再会の喜びを」 花蓮、そんなものに祈るな。 「真っ暗で何も見えないからなあ、呼びかけるしかない。空夜、いるかあ?」 ……。ここにいる、圭人。 「ママ!」 「ヨシ君!」 ああ、我慢できなかったか。わかっていたはずなのに。
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