花火夜

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 かれこれ一か月くらい昼間に人に会ってない。最初の日からどんどん人が減っていった。日にちを数えてないと気が狂いそうだと思って一夜一夜数えてたから二か月ってわかるけど一日くらい数え間違えてるかもしれない。どうでもいいけど。  どれだけ歩いてもあいつらは夜必ず俺に付かず離れずの距離で歩き回る。本当は俺がそこにいるってわかってるんだろうな、俺に気づかれないようすっとぼけてるだけだ。  あの一夜ですべてが変わった。ここは黄泉の国なんだろうなと思う。いや、その入り口かな。ふいに頭によぎるのは神話だ。イザナギがイザナミを死者の国から連れ戻そうとして、扉の中を見るなと言ったのに見てしまった。こちらとあちらが繋がる中途半端な場所。死者と生者が混在する独特のルールがある世界。しゃべったら終わりなのだ。足音でも物音でも気配でもない。声なんだ。声でこちらとあちらが繋がる。  その日の夜。夜明けまで一時間を切った時だ。みんなが空夜がいない、いないと探している時。 「ねえ、空夜に会ったらなんて言う?」  花蓮が真弓に声をかける。真弓はえー、っと照れたように言うとモゴモゴと。 「わかってて聞いてるでしょ。まずは会いたかった、からの。寂しかったよ、からの」 「かーらーのー?」  圭人たちがからかうようにはやし立てる。真弓は、もう! と言ってペチっと音がしたので腕や背中を叩いたのだろう。圭人がいってえ、と笑っている。 「私の気持ち、言うつもり……」 「きたー!」 「つーかとっくに知ってたけど!」 「いいの! 鈍感な空夜は気づいてないだろうから!」  どんだけ俺が鈍いと思ってたんだ、知ってたし。もちろん前はそんな事なかったけど、もしかして真弓って、と思ったら真剣に考えるようになった。受験終わったら、言おうと思ってた。  でも我慢できなくて、夏期講習が終わったらと言おうと思って。それでも落ち着かなくて、やっぱりゴールデンウィークかな、とか新学期の集中講習終わったら、とか、いろいろ考えて。あの日、バスで帰ってたあの時。 「なあ、真弓」 「なに?」 「今日遠回りしてお前と帰る」 「え、何で? どうしたの?」 「いや、ちょっと。話がしたいっつーか。二人で話がしたいっつーか……」 「え」  クッと口元が歪む。明かりが消えてバスが横転する直前の会話だった。 「あの会話しておいて、鈍感はねえだろ」 「え?……く、空夜?」 真弓の驚いた声。
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