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「空夜か!?」
「やだ、ほんとに!?」
「おいマジか!」
バタバタと近寄る音。暗いから顔は見えないけど間違いなくあいつらだ。
「どこにいたんだよ! 探したぞ」
「俺の後ずっと付け回しながらな」
「……」
「俺の気が狂うの待ってたのか、我慢できなくなるの待ってたのか知らんけど。よくもまあ二か月も粘ったな」
俺の淡々とした声に少し戸惑っているようだ、襲い掛かってこない。でも準備はできているんだろうなと思う。皆さりげなく逃げ道を塞ぐように広がっていく。真弓が一歩一歩近づいて来た。暗くて顔は見えないけど、たぶん笑ってるんだろうな。
「……。ねえ、空夜。私達、ずっと一緒だよね?」
「保育園からずっと一緒だったな」
「じゃあこれからも一緒にいようよ!」
「それもいいかもな。一人は寂しいんだ、この二か月でよくわかった。皆と、真弓と一緒にいたい」
俺の答えに真弓は本当に嬉しいのだろう、顔は見えなくても嬉しそうな気配が伝わる。
「……なんて言うとでも思ったのか」
「え?」
ライターで火をつける。それは、手持ちの小さな花火だ。夏にスーパーでよく売ってるやつ。シュっと音がしてあっという間に火花が弾ける。
「きゃあああ!?」
「ぎゃあ!」
「やめろよおお!」
「いやあああ!」
「なあ、知ってるか? 花火って供養とか鎮魂の意味があるんだよ」
花火を数本つけて思い切りあいつらの方に向けた。煙が広がり、あいつらも目を覆うような動作をしているせいで顔は見えない。焼けただれていたり頭がへこんでいるかと思ったけどそうでもないのかな。冷静にそんなことを考える。
あいつらだけじゃない、俺の声に集まって来た大勢の死者たちが一斉にのたうち苦しみ始めた。
「死人は死人らしく、さっさと消えろ」
「なんでええ! 何でそんな事言うのおお!? 私空夜に会いたかったのにいいい!」
「やめろよ友達だろ俺達! やめろおおお!」
「ああ、友達だったな。お前らが生きてる時までは」
俺の冷たい声にヤバイと思ったのか、真弓たちも他の死者たちも一目散に近くの建物に走った。
再会を喜んでいた人たちを引き裂いたり、撲殺したり、悲鳴を聞いてもケロっとしていたあいつらを何十回も目の当たりにしてきた。目の当たりっつっても見たわけじゃないが、それでも。
俺の知ってる友達じゃないって認めるのに一か月以上かかった。何十回も泣いた、こいつらを否定しなきゃいけない自分を責めて叫んでもう涙は枯れた。
「ああそうそう。真弓、あの日言いかけた事な。俺お前の事」
俺の声に苦しむ真弓が足を止める。
「生きてた時は好きだったけど、今は全然そんな気持ちねえわ。だってお前死んでるし」
そう言いながらさらに火をつけた花火を五本、振り返りざまの真弓の顔に押し付けた。
「ぎゃあああ!」
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