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「糞野郎、お前本当に最低だよ! 真弓の気持ち知ってたじゃねえか!」
駆け寄って来た昌成……手に、ナイフみたいな物を持っている昌成に新しく火をつけた花火を向ける。
「ぎゃあ!?」
「家族と再会して泣きながら喜んでた小学生をぐちゃぐちゃに殺したお前が言う? 死ぬとそういう倫理なくなるもんなんだな。こども食堂を毎日手伝ってた奴とは思えねえよ」
「空夜ああぁぁぁああ!!」
昌成が俺を怒鳴りつけ真弓を抱えると建物に向かって走っていく。真弓は両手で顔を覆って泣き叫んでいた。顔、焼けちゃったかな。焼け死んだ奴にちょっと酷だったか。――どうでもいいけど。
倫理というか、常識のネジが飛ぶんだろうな。二か月もつかず離れずを繰り返されて、すぐ近くで人殺しを平気でやってる連中をどうしてまともな扱いすると思うんだろう。死者の常識はまったく理解できない。
当然か。俺は生きているから。
死者が全員建物に入っていく。まだ数人入ってないけど、まあいいか。時間が来たら仕掛けが動く。タイミングがちゃんと合った。
爆音とともに大爆発が起きた。
あいつらが逃げ込んだのは花火工場だ。二か月前には夏休みに向けて製造がピークだったことは知っていた。工場に在庫があることも。この一か月弱ずっと準備してきた。どうやってスイッチを入れるか、どう追い込むか、どうやってまんべんなく爆発させるか。計算に計算を重ねた。
花火は止まることなく次々弾ける。その中でもがき苦しむ影たちが、次々と消えていく。強い光の作用かもしれないが、本当に花火の影響もあるんじゃないかと思う。
まるで花火大会のような光景の中に逃げまどう人々、そして消えていく人々。時間差で花火がつくようになっているから、夜明けまでの一時間ずっと輝き続ける。
「ああ、きれいだな。良い夏になりそうだ」
うっすら笑う俺を、化け物でも見るかのような怯えた表情で見ていた真弓たちは、大輪の中逃げ惑う。
「俺が気が狂うの待ってたんだろうけど」
もう涙も流れない。大切な人たちの死と無力な自分と、大量殺人をすべて見逃してきたことへの罪悪感と、あいつらが平気で人を殺している様を何十回も認識させられて、なんかもういろいろなものがぐちゃぐちゃになった俺は。
「とっくに狂ってるよ」
微笑みながら、一人花火を見つめ続けた。花火の中、悲鳴と共にあいつらは散って消えていく。
なんて奇麗なんだろう。やっぱり光り輝くものは、奇麗だ。
END
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