花火夜

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手を伸ばしたら星が掴めそうだ。 眠らない町、東京。夜中になっても煌々と輝き明るく、生まれてから今まで満天というやつを見たことがなかった。 「満天の星だあ」 「満天の星空、って言わない?」 「意味がかぶるよ、天が空だから。炎が燃えてる、みたいな感じ」 「あー、サハラ砂漠みたいな?」 「なにそれ」 「サハラって砂漠って意味だから。砂漠砂漠って言ってる」 「マジで?」 「ロマンがないなあ」  今東京は暗い。東京だけでなく日本全国、いや世界が真っ暗だ。  世界から電気が消えて二か月くらい経った。大勢亡くなったけど、俺はなんとか生きている。電気がないと生きていけない人たち……入院患者から命が消えていき、物流が止まって生活が困難となり、食べ物が腐って食糧難となった。五月が異様に暑くて食べ物があっという間に腐ったのも大きい。  不安な生活や暗闇に耐えられず心を病んで自ら命を絶つ人も増えて、人が築いてきた社会制度が崩壊している。野生動物の方がまだうまく生きている。その動物たちも人の食料となりつつあるんだが。 ざわざわ、ざわざわ。  皆、町を徘徊する。特に何をするでもなく歩いてしゃべって。まるで学校に行くかのように楽しそうな人もいれば哲学的な事を考える人もいる。 「ああ、夜の王。あなたは長らく昼の王に支配されていた。しかし今はどうだ、あなたの支配の時が来た」 「来たって。とっくに来てるよ、二ヶ月だよ」 「いいじゃん、語呂が良いんだから」 「前から思ってたけど、恥ずかしくないの?」 「このご時世で今更恥とかある?」 「ないねえ」 ざわざわ、ざわざわ。  いつものメンバーだ。幼馴染の真弓、中学から一緒の昌成、真弓の友達の花蓮、みんなの中心にいる圭人。ポエマーは花蓮だ。ファミレスとかはいいけどちょっと静かな公園とかで言うのは勘弁してほしかった、恥ずかしい。今は、もう今更だ。  エアコンの生活に慣れた俺は夏の夜が思いのほか堪える。じっとりと汗が出て水分補給もままならない。電気が止まったから水道も水が出ない。水道って電気の力で水が出てるんだなと初めて知った。さすがに水場確保と雨が降った時の雨水確保の奔走にも慣れた。  空を見上げる。暗闇の中で何もないと絶望していた中で唯一見つけた満天。辺りを照らす事のない光たちだけど、それは確かに俺の心を落ち着かせてくれる。光り輝くものは、きれいだ。
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