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 脳血管性認知症とアルツハイマーの合併症。  恐れていた脳梗塞の後遺症の一つだった。 「時間や場所、人物の特定が困難になる見当識障害、物忘れなどの記憶障害、当たり前にできていたことができなくなる実行機能障害などが断続的に発現したり、感情のコントロールが難しくなっていきます。急に怒り出したり、悲しんだり……ときには鬱のような症状も見られ、容態が悪化すると幻覚や妄想を見ることもあります。現在の医療技術では快復することはありませんが、進行を遅らせることは可能で……」  淡々と語られる医師の言葉を、私は力なくただ何もない宙の一点だけ見つめて聞いていた。正直、話の半分も頭の隅に留まってはくれなかった。  要約すると、母は私を忘れてしまう。そういうことだ。  誰に言えば、誰に頼めばこの現実を変えてくれる? 神様に祈れば、私に母を返してくれるの? それとも、神様のギフトなど束の間、これが家族を信じられなかった私への、罪と罰なのか。  抗い、償い。それすらも結局は私の自己満足に過ぎなかったのか。もう何もわからなかった。  これからは本格的な介護が必要になる。  姉も来ていたため、家に帰ってから母と子どもたちを寝かしつけた後、父と夫を含めた四人で今後のことについて話し合った。  状態としては、まだ母が母である記憶は残っている部分が多いらしい。しかしこれから少しずつ、母は私たち家族を忘れてしまうことは確実だという現実は変えられない。  私たちにできることは、最後まで母の尊厳を保ち、現実から目を逸らさず向き合い続けること。それしかなかった。
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