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急なことだったため夫と子どもたちは家に残して、私だけ実家に帰ってきた。五年ぶりの実家は、見た目こそ変わらないものの、ずいぶんと廃れたような雰囲気を帯びているように感じた。姉も結婚して実家を出ている。今はもう父と母しか暮らしていない。使わなくなった部分が多い家というのは、生気を失ったかのように古さが滲む。
背比べをした柱の傷、姉とケンカした勢いで破ってしまった修復されている襖、昔から使っていてすすけた絨毯。至るところにあの頃になかった傷みを感じながらも、懐かしさと哀愁が込み上げてくる。
五年前にはなかった感覚。きっと、今だからこそ感じられる感覚。
居間で物思いに耽っていると、台所から父がひょっこりと顔を出した。
「すっかり片付けちまったんだけどよ、お前の部屋でも見ていったらどうだ」
年甲斐もなくはにかんだような笑顔で、父は私に促した。
毎月来る電話はいつも母から。五年間帰っていなくても、なんだかんだ母とは言葉を交わしていたけれど、父と最後に話したのはいつだったか思い出せない。そのことにいくらかの後ろめたさを感じながら「うん」と一言だけ言って私は頷いた。
二階に上がり、自分が使っていた部屋の襖を開ける。室内は思いの外広く綺麗に整理されていて、他の部屋とは違う生気を宿していた。そう言えば五年前もその前も、帰ってきたときはいつも綺麗に片付けられていたことを思い出した。
だけど今はそのときとは違う、柔らかさや愛おしさのようなものを感じた。
ゆっくりと足を踏み入れ、カーテンと窓を開ける。眼前には背の低い家屋と急に飛び出したような古いビル。遠くの山に藍の空。西側はぼんやりとオレンジ色が溶けている。
いつから見てないかわからない風景。でも昔から知っている、懐かしい風景。記憶から切り出した一枚の映像と、ほとんど変わらない風景。儚くて美しい、なんて初めて思ったかもしれない。
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