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 急な帰省から一か月後、私は会社を辞めた。  理由はもちろん、母の介護のためだ。  そのためには家族を巻き込まなければならない。私の勝手な理由で、夫も、子どもたちも人生を大きく変えなければならないことはわかっている。苦渋の決断だった。  実家から帰宅後、私はすぐに夫に相談した。これまでの想いも、恥部も、何もかもをさらけ出して、懇願した。意外にも夫は簡単に承諾し、三日後には私の実家の近くにある支社への異動願いを提出し、しかもそれが無事に受理された。  そうして今、私たち一家は晴れて実家に引っ越した。 「僕のわがまま勝手にこれまで付き合ってもらったんだ。今度は僕が付き合うよ、君の初めてのわがままに」  私は夫に感謝した。結婚して十年、私はまだまだこの人のことを知り尽くしていないんだって後悔と反省をしながら、それでもただ感動し、感謝した。  子どもたちは呑気なもので「ずっと旅行気分だね」なんて言ってはしゃいでいる。まるで天使がじゃれて遊んでいるかのような、微笑ましい光景だった。  そうして見ると、私の周囲はずっと光に溢れていたのかもしれない。不謹慎だけど、こんな世界に生きてるって、母が教えてくれたのだと思えるくらいに。  引っ越ししてからは後遺症の残る母の代わりに、私が家事全般を担当した。もちろん休日なんかは夫も、ときには子どもたちも手伝ってくれてとても頼もしかった。  それまで古く、廃れていた家は瞬く間に命の息吹を宿し、幼い頃に毎日帰っていたあの頃に戻っていた。  その中でも、ひと際大きな変化があった。疎遠だった姉のことだ。  もともと、私と姉が特に疎遠だっただけで、実家にはたまに帰って来ていたらしい。姉の子どもも私たち家族と同じでふたりいて、勝手知ったるがごとくに家中を遊び場にしていた。私の子どもたちも、最初こそ人見知りしていたが回を重ねる毎に、一緒に家の庭や近くの川などで遊ぶようになっていった。
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