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 姉が帰って来た日は、子どもたちが寝静まってからふたりでお酒を酌み交わした。  姉は凜とした性格で、昔から何でもそつなくこなし、何事にも動じず自分の意見をしっかり持った女の子だった。なまじ優秀だからこそ、場当たりで不器用な私には届かない輝きのようなものを常に帯びていて、比較されるのが怖くて、いつもどこか遠慮していた。 「あんたさ、あたしのこと嫌いだったでしょ」  梅酒を呷りながら、おもむろに姉が言った。 「そ、そんなこと」 「いいのよ、ずっとわかってたし。あんたは気持ち隠すのが昔っから下手だったからね、面白いくらい」  言い返せないほど図星だった。私自身が気付いていることだ、他人、まして勘のいい姉が気付かないわけがないのだ。  実家に帰ってきたということはこういうこと。遅かれ早かれ、いつかはこの日が訪れていたはずだ。むしろ、姉のことで辛いとか苦しいとか思うのは、今まで逃げ続けてきたツケが回ってきたのだけのことだ。  さらりと前髪を払う、そんな所作ですらいちいち絵になる姉に、今晩私は物申したい。 「……お姉ちゃんの存在のすべてが、コンプレックスだった。何においても私は二番目、二の次で、知恵も力も容姿だって勝てない。逆立ちしても勝てないって絶望が常に隣にいるって、お姉ちゃんは考えたことある?」 「ないね。だいたい、絶望と寄り添って生きたことないし」 「でしょう? そんなとこも苦手だった。いつだって前向きで、爽やかな顔してて、男女問わず人気者で……。そんな人の妹がどれだけ惨めだったか、どれだけ日陰を生きてきたか、お姉ちゃんにはわかんないよね」  話しているうちに、唇が震えていたことに気が付いた。止まれと思えば思うほど震えはひどくなっていって、次第に声も涙混じりになっていた。 「お母さんだって、ずっと独り占めしてたくせに」  なんて情けないんだろう。  言うに事欠いて「独り占めしてたくせに」なんて、まるで好きな人を取られた未練がましい女子高生と変わらない。
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