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 梅酒を一口呷って、姉は私をじっと見つめた。嘲笑うでもなく、軽蔑するわけでもない、ただただまっすぐな目で。 「あんたさ、変わったよ」 「変わったって、どこが? お姉ちゃんや他人とか、私にはないものばかり持ってる人たちを羨んで、妬んで、心の中で毒づいてさ。いつも自分ばっかり優先で、勝手にお姉ちゃんのこと嫌って、お母さんにだって辛く当たって。本当は誰も悪くないってわかってる、悪いのは全部――」  言いかけて、テーブル越しにお姉ちゃんが私の唇にそっと人差し指を当てて言葉を遮った。突然のことで、こぼれそうになった言葉を思わず飲み込む。 「昔はこんなに喋る子じゃなかった」  唇に当てられた人差し指がゆっくりと横に滑り、私の頬をやさしく撫でた。 「でもそれは見方が変わっただけ。ホントの優は名前のとおり、昔っからやさしい子。今はね、自分よりも大切な人のために行動できるようになったの、優は。だから今ここにいるの」  凪いだ水面を揺蕩ってるような、やさしい声だった。  何もかもが許されているような気がして、嬉しくもあり恥ずかしさもあり、でも握った拳を引っ込められないもどかしさもあって――素直になれない。  姉はいつもそうだ。絡み合って解けなくなった糸をけっして引っ張らずに、迷わずに、気が付かないうちにすうっと解いてくれる。  そんな姉を、尊敬していないわけなどない。 「あんたはすごいよ」  いつの間にか私はぼろぼろ泣いていた。 「あたしの自慢の妹、あたしたちの自慢の家族だよ」  この数ヶ月、いったいどれだけ涙を流したんだろう。何年も溜め込んだ想いの塊は、そう簡単には溶け切ってくれない。  まだまだ、私は自分のことを知らない。絶望と苦悩しかないと思っていた箱の奥底に、こんなに綺麗な涙を流せる感情があった。まるでパンドラの箱みたいに。そして、その鍵は家族が持っていた。私が生まれたときから、たぶんずっと。  再び姉と会ってお酒を飲んだとき、私たちは珍しく過去の恋バナに花を咲かせていた。
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