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 西日を受け、白い二階建ての観測所がオレンジに輝いていた。屋根に複数のアンテナが付いている以外はただの四角い箱だ。駐車場にバンを止め、回収したドローンを下ろしていく。 「どうせまた白データばかりに決まっている。同じデータを少し手直しして送っておけばいいだろう?」  玄関のドアを開けて出てきたのは同僚の風馬だった。既に白衣は脱ぎ、肩から鞄を掛けている。天然パーマの髪は遠くからでもよく目立つし、小ぶりな丸眼鏡を合わせればそれだけで彼だと視認できた。 「データというのは同じように見えても小さな変化をしっかりと捉えているものだから、毎日きっちり記録していくことが将来の大発見に繋がるんだよ。僕はそう榊教授に教わった」 「この世界少雨危機を予測すらできなかった、あの老いぼれのことか?」 「空の神様だって予測はできなかっただろうよ。未だに誰一人として原因の欠片すら突き止めていないんだ。それとも君は天才学者でもいればこの問題がたちまちに解決できるとでも?」 「天才ねえ。嫌な響きだ」  風馬は唇を捻って霧尾を睨めつけると、軽く手を振って自分のミニクーパーに乗り込み、帰ってしまった。  もう時刻は六時前。それでもデータの処理をして本部に送ってからでないと、霧尾の仕事は終わらない。  台車に載せたドローンを所内に運ぶ。きゅるきゅるとコマの回りの悪い音を響かせながら、霧尾は思った。  ――本当は無駄なことを続けているだけなのかも知れない。  霧尾は結局その日も観測所の仮眠室で夜を過ごした。  その日は風が強く、何度も窓が叩かれ、あまりよくは寝付けなかった。  結局まだ日が昇る前から過去のデータをグラフに起こし、モニタで一つ一つ確認作業をする。  気象観測用のバルーンといえばラジオゾンデが有名だが、こちらは一日に二回、地上三十キロまで飛ばしてデータ収集をすることになっている。それとは別に低層用の観測ドローンを使い、ピンポイントで幾つかデータを収集していた。その確認作業だ。  昨日と、一昨日のデータだった。  降雨したことを示唆するものがあったのだ。  僅かな雨はこの世界でもごく稀に発生する。  特にここが地上四百メートルの場所だということもあるが、年に何度か、小規模な降雨現象は確認されていた。  けれど、地図に起こしてみると同じポイントでその謎の降雨は発生していたのだ。  その場所は天鯉ダム。  かつての霧尾の実家があった場所だった。
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