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 翌日、霧尾の体はヒューストン空港のロビィにあった。 「随分と精悍な顔つきになったんじゃない?」  彼を出迎えたミレーヌは学生時代とは違い、あどけない印象はすっかり消え去ってしまっていた。それでもショートの赤髪は彼女の気の強さを感じさせるあの頃のままだ。 「それでティアについて、僕は何をすればいい?」  ミレーヌは顎でついてくるように示すと、黙ったまま歩き出す。  外を見ると数名のサングラスをした男たちが、こちらを伺うように佇んでいた。  彼らは人物救出のエキスパートだった。  この降り続く雨を止める、そればかりか、ティアの涙を止める。  その為に必要な人材として一時的に彼女を保護した霧尾に白羽の矢が立ったらしい。  車中で奪還作戦について聞かされ、NXA職員の制服とIDカードを渡された。  一時間ほどで研究所に到着すると、既に所内は混乱しているようだった。ハッキングと爆発物を仕掛けたという誤情報により、ほとんどのスタッフが避難しているとのことだ。  ミレーヌと別れ、霧尾はIDカードを使い、次々に扉を進んでいく。  専用のエレベータを使い、最深部へと降りた。  突き当りの部屋のドアを開けると、そこには憔悴した様子のティアがいた。  足首を鎖に繋がれ、ベッドの上で横たわっているが、その両方の瞳からは絶えず涙が流れていた。  腕には何かの薬を注入されているのだろう、点滴の管が繋がれ、それが天井から何本もぶら下がっていた。 「ティア!」  霧尾は呼ぶ。  けれど声に反応はない。 「ティア?」  彼女の視界に入るように近くまで行き、再度声を掛けた。  それが分かったのか、小さく顎を動かす。 「ティア。今助ける」  そう言った瞬間、足元を銃弾が掠めた。 「近づくな」  振り返るとそこには風馬が立っていた。 「君が、彼女の情報をここに教えたんだな?」  風馬は霧尾が論文として書いていた彼女の情報を盗み、そのままNXAに持ち込んだのだ。それが引き抜きの理由だった。 「今更何をしにきた? 彼女を助けるのか?」 「ティアは、彼女には、雨を降らせる力はない」 「そんな詭弁は通用しない」 「それなら今この現状をどう説明する? 雨は止まない。彼女は、もう泣いていないのに、だ」  見るとその涙が止まっていた。  点滴は引きちぎられ、彼女は自分の足で立ち上がる。  よろけたところを、霧尾が抱き締めた。 「もう大丈夫だ。泣かなくていい」 「いや、泣け。世界を救う為じゃない。俺を有名にする為に、だ」 「そんなことは、させない」  霧尾は風馬に向き直ると、そのまま駆けていって右顎を殴りつけた。  初めて人を殴った痛みよりも、自分の腹部に感じた熱の方がずっと強烈だった。 「風馬を抑えろ!」  仲間として潜入していた警備員たちが銃を手に風馬を押さえつける。  その間に、鎖を外されたティアと共に、霧尾は外へと連れ出された。
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