6/7
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「師匠!  どうしよう、サルクイとヘビクイが!」 里長と大人たちが、異変に気づいて追いかけてきていた。 「風の怒りを買ったね…」 「どうしたらいい?」 首を振った。 どういうこと? なんで何も言わないの? 大人たちに目を向けても。 誰も目を合わせない。 「何もしないっていうの…?」 後ずさる。 走る。 それじゃあ、サルとヘビはどうなるの? もうずっと走ってる。 息が苦しい。 汗だくの首に髪が張り付く。 誰も追ってこない。 誰も救おうとしてくれない。 「風よ!」 叫んだ。 「あの2人を返して!  大事な友だちなの!  私の兄なの!  お願いだから、  燃やさないで!  落とさないで!  私のもとへ返して!」 いつもの唄とは全然違う。 思いのままに叫んだ。 叫びながら走った。 黒い風が睨む。 こっちへ向かってくる。 「うっ!」 砂や草が舞う。 それでも走り続ける。 「返して!」 目に砂が入る。 頬を枝が切る。 「2人を返してよ!」 喉が裂けたのだろうか。 血の味がする。 「サルクイとヘビクイを返して!」 一部始終を見ていた。 南風が。 目を細め。 その爪先で。 焼け焦げた気球を弾いた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!