独裁者ゼムト

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「やはりそのことだったか。予感はしていたよ。誰かが私の計画を邪魔しに来るとね。まさかキミたちのような子供に指図されるとは。悪いが"老い"は嫌いでね、使えない老人を見るとイライラするんだよ。彼らは社会に何も貢献していないばかりか、迷惑をかけているじゃないか。認知症の老婆なんて手に負えない。排泄すら自身でできないんだぞ。そのための医療や介護の費用が、どれだけ国民の税金で(まかな)われていることか。はっきり言おう、老人は生きている価値がない。少なくとも私はあんな醜い姿になりたくはない、だから老いが急速に進む40歳以上の人間を安楽死させ、まだ使える臓器を若い病人に移植するんだよ。老いた人間の臓器は役に立たないからね。これで社会の歯車はうまく回る。すばらしい計画なんだ!」 ゼムトはあくまでも老人を(さげす)み、自分の考えが正しいと無茶な主張を通す。ついに我慢できなくなったユウヒが、声を荒らげて反論した。 「いい加減にしなさいよ!老人は使えないとか生きている価値がないって…なんであなたが決めつけるの?確かに寝たきりの人とかもいるけど、今までみんな必死に生きてきたのよ!私の祖父母はね、孫にすごく優しいの。おばあちゃんは料理とかも教えてくれるし。おじいちゃんは毎日ジョギングしているわ。2人とも楽しそうに老後を過ごしてる。この国にだって、まだまだ元気なお年寄りが沢山いるでしょ?ましてや40歳なんて働き盛りじゃない。勝手に殺さないで!!」 ユウヒは目に涙を浮かべ、精一杯ゼムトに訴えかけた。 その顔を見たゼムトは、急に立ち上がり大きく目を見開いた。そして小さく(つぶや)いた。 「母さん……?」 「え?」 「いやごめん。キミのその怒った顔が亡くなった母の残像と重なってね。私が幼い頃、悪さをして母に叱られた時のことを思い出したよ。病気で、若くして死んでしまったけれど。そういえば母さんも言っていたな、"命は大切にしなさい"って。私はいつからこんなひねくれた概念を持つようになったのかな。情けない」
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