独裁者ゼムト

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ゼムトはそう言って、右手で顔の半分を覆い隠した。 「キミたちの言いたいことはわかった。私の計画を阻止したいんだろう?確かに、この計画はあまりに無謀だ。実行するとなれば、安楽死専門の施設を国中に設置しなければならない。莫大な費用がかかる。それに間違いなく国民の反感を買うだろう、特に40歳以上の"当事者"たちからはな。老人にも幸せに毎日を過ごす権利があるってことか。結局、私の頭の中の"妄想"に過ぎなかった____少女よ、気づかせてくれてありがとう。考えを改めるよ。計画は中止にする」 「本当ですか?信じていいんですね?」 「ああ、約束する」 ユウヒのまっすぐな想いに心を動かされたゼムトは、ペタに疑いをかけられても変わらず計画をやめる意向を示した。 それを確認したユウヒとペタは、目を見合わせて喜んだ。 「ペタ。よかったね!これで『エルバートストン』の人々を守れたかしら?」 「うん、大成功だよ!キミのおかげだユウヒ。占いの通り、外国人の助っ人に救われた。本当にありがとう」 ペタはユウヒの功績を(たた)え、嬉しさのあまり彼女の手を握った。 2人は"暗黒の砦"を後にし、渓谷を再び渡ってラッセル駅まで戻ってきた。夏の夜にしては風が涼しかった。 「そういえば、さっきここで見た花火。あれには感動したわ。私、打ち上げ花火とかお祭りが大好きなの。"夏の風物詩"って気がしてね」 「そうなんだ。祭りと言えば、スペインでは有名な"トマト祭り"があるよね。夏の終わりに、みんなでトマトを投げ合って楽しむんだって」 「へえ、面白そう!でも服が果汁で真っ赤になっちゃうよ、洗濯が大変(笑)」 「ははは、そうだね。……さてと。そろそろお別れだね。僕は魔法が使えるんだ。キミを日本に帰してあげるよ」 そう言われ、ユウヒははっとなった。列車の中ではあれだけ帰りたかったのに、今は一緒に冒険をした同い年のペタとの別れが名残惜しく感じられたのだ。
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