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「あさとー! 10えんあった!」
「おー! いれていれて!」
僕が両手で差し出した段ボール箱の細長い口に、夕貴は誇らしげに10円玉を入れた。ちゃりん、という音がゴールへと向かう足音に聞こえる。
「けっこういいかんじ」
僕は箱を振る。中に入っているお金がちゃらちゃらと音を立てて、蝉の鳴き声と重なった。
その箱の正面には『100まんえんちょきん』と書かれている。
マジックで僕が書いたものだ。我ながらなかなかうまく書けたと思う。
「うんうん、やっぱりじはんきだな」
夕貴は大きく頷く。自動販売機を探ろうと言い出したのは彼だ。
お母さんから貯金とはお金を集めることだ、と教わってから僕たちはどうすればお金を集められるかを話し合った。その中で出てきたのが「じはんきって、たまにおつりのこってるよね」というものだ。
それから僕たちは近所の自動販売機をひたすら見て回った。時には新たな自動販売機を発見するために知らない道の探索もする。
そして、その作戦は見事に成功していた。
「みんなジュースすきなんだなあ」
「あついもんね。ぼくたちもすいぶんほきゅうしなきゃ」
額から流れる汗を拭って、肩からぶら提げた水筒の蓋を開けた。中にはお母さんが入れてくれた冷たいスポーツドリンクがたっぷり入っている。
蓋に注いだ甘いドリンクを夕貴はごくごくと飲み干して、ぷはーと大げさに息を吐いた。
「よーし、このちょうしでどんどんいくぞ!」
夕貴が右拳を勢いよく空に突き上げた。青い空に浮かぶ小さな拳を見ながら、僕は身体の内側からふつふつと膨らんでくる気持ちに気付いた。
今なら何だってやれそうな気がする。
箱を持ち上げる。その重みがますます僕を奮い立たせた。
たった一週間にしてはかなりの量が集まったと思う。この調子なら一ヶ月もあれば100万円貯まっちゃうかもしれない。
自分たちが立てた戦略の巧みさに惚れ惚れした。
「あらかせぎだー!」
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