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「2000円です」
卒園式を終えた僕たちはリビングのカーペットの上に二人並んで正座して、お母さんの結果発表を聞いた。
家に帰ったらすぐに教えてもらう約束だったから僕は胸に赤い花をつけたままで、夕貴に至っては帽子すら脱いでいない。
「「2000えんってどれくらい?」」
僕たちは声を合わせる。二人は同じことを思っていた。
自分たちが一年かけて集めたお金は、人生のゴールにどこまで近づけたのか。
「うーん、ジュース20本くらい?」
「それはすごい」
「おなかがみずふうせんになっちゃう」
「うん、一気飲みしたらね。まあ自販機のお釣りだけで集めたにしてはすごいけど」
100万円にはまだまだかなあ、とお母さんは笑っているけれど困った風に言った。幼稚園のみんながワガママを言うと先生がよくする顔だ。
「まだまだかあ」
「まだまだって、あと100ねんくらい?」
「そんなにはかかんないと思うよ。二人のがんばり次第では大人になるまでには集まるんじゃないかな」
大人になるまで。お母さんみたいに大きくなるまで。
それは僕からすれば100年よりも遠く感じた。
ただ、夕貴は少し違ったらしい。
「じゃあぼくたちがすっごくがんばればすぐあつまるってことだ!」
弟は勢いよく立ち上がる。夕貴の頭から帽子が落ちた。
その帽子に目を奪われていると笑い声が聞こえた。お母さんが今度ははっきりと笑っている。
「うん。がんばれ」
お母さんは高さの違う僕たちの頭を両手で撫でた。わしゃわしゃと、お米を研ぐようにかき混ぜる。
ぐらんぐらんと視界を揺らしながら、そのあったかい手から力をもらえた気がした。
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