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「100まん円あつめたら朝斗はなにしたい?」
前を走る夕貴は顔だけでこちらを振り返った。
きっと緩く長い登り坂に辟易した気持ちを紛らわすための雑談だろう。
僕はペダルを踏み込みながら答える。
「すごくおっきいおにくたべたい。さいこうきゅうのやつ」
「朝斗はくいしんぼうだ」
「おいしいごはんはしあわせだもん。夕貴はやっぱりふねかうの?」
「うん! 100まん円でふねかって大ぼうけんする!」
僕たちは誕生日プレゼントに買ってもらった自転車を漕ぎながらお互いの夢を語り合う。
本当は車を運転したかったけど「小学生には早いよ」とお母さんから言われてしまった。まあでも自転車のほうがカッコいいから良しとする。
「けっこうとおくまできた気がする」
「見たことないおみせばっかり」
自転車という交通手段を得たことで、僕たちの行動範囲は格段に広がった。
今日はついに隣町までやってきた。ここまで来た理由はただひとつ。
「すごい、しらないじはんきがいっぱい」
「さすがとかいだ」
僕たちはたくさんの人とたくさんの自動販売機を視界いっぱいに入れる。夕貴は知ってか知らずか口元が緩んでいた。弟がそうなら、僕も同じ表情をしてるんだろう。
兄弟は口を揃える。
「「あらかせぎだー!」」
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