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「63000円です」
卒業式を終えた僕たちはリビングのカーペットの上に二人並んで正座して、お母さんの結果発表を聞いた。
さすがに小学六年生ともなれば、お金の計算はできる。しかし僕と弟は『100まんえんちょきん』の箱を絶対に開けない約束をしているので、この箱を開けられるのは母だけだった。
「マジか。六年で?」
「全然貯まってないじゃん」
僕たちは愕然とする。夕貴は手に持った卒業証書の入った筒を悔しそうに床にぶつけた。
63000円。それが100万円に遠く及ばないことを僕たちはもう知っている。
「バイトもせずに貯金できてるのはすごいけどね」
母は僕たちに向けて優しく微笑む。
けれど、僕は納得できなかった。自販機収入だけじゃない。お年玉やお手伝いの駄賃もそこに入れていたのにどうして。
確かにたまに二人でスーパーのお惣菜を買って食べたりもしたけども。
「……そうだ。バイトだ」
隣で落ち込んでいた弟が顔を上げた。
活路を見出したかのように、その目には光が宿っている。
「お母さん、中学生になったらアルバイトしてもいい?」
確かにアルバイトなら今までとは比にならない額の収入があるだろう。
けれどそれは無理だ。僕は思わず口を挟む。
「でも校則で禁止されてるんだよ」
「あ、そうだっけ」
この間届いた公立中学校のパンフレットにはそう書いてあった。まだ全部は読んでいないが、そこら辺はチェックしている。
「じゃあダメかあ」
がっくりと肩を落とす夕貴。その気持ちもわかる。
「……いけるかもよ?」
その声に、いつの間にか下を向いていた僕は顔を上げる。弟も同じ動きをした。目の前の母はにやりと笑っている。
「え、でも校則が」
「朝斗。世の中のルールには何にでも特例というやつがあってね」
「あ、知ってる。特別な例だ」
「そうそう夕貴。よく知ってるねえ」
褒められた弟は嬉しそうにした。少し羨ましいが、それよりも僕はこの話の行く末が気になった。どうしてそんなことが起きるのか。
頭の中をぐるぐると回る疑問に「それで」と母はいとも簡単に答えを示した。
「うちは特別かもしれないから」
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