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「新人くん、これ3番テーブルね! あとこっちは5番と12番!」
「はいっ!」
キッチンから次々と飛んでくる指示に、僕は食らいつくように返事をした。カウンターに置かれた料理を間違えないようにテーブルへと運ぶ。
僕たちは駅前のファミレスでフロアスタッフのアルバイトを始めた。母の言う通り、僕たちの家は特別だったらしい。
放課後の限られた時間と、課題を忘れないこと、そして成績を落とさないことを条件に僕たちには特例が与えられた。
「お待たせしました!」
「遅いよ!」
「申し訳ありませんっ!」
苛立った客の言葉に僕は頭を下げた。
夕飯時は混雑するから仕方ない、というのはこちら側の都合で彼らには関係ない。強いて言えば、中学生を雇うしかないほど人手の足りないこのファミレスが悪いのだ。
だから、ただただ謝るしかない。お金を稼ぐというのは大変だ。
「君は弟くんより動きは遅いけど、謝り方は上だねえ」
客足がピークの時間帯を抜けて一息ついたとき、店長は快活に笑った。一方の僕は愛想笑いで頷く。
中学生になると弟と比べられることが増えてきた。
いや、僕たちに限った話ではないのだろう。みんな何かにつけて、順位をつけられる機会が増えた。
ただ僕たちが双子で、いつも近くにいるから比べやすいだけだ。
そんなとき僕たちはこう言うようにしている。
「二人合わさったら最強なんです」
ピンポン、と呼び出し音が鳴る。僕は注文票を持ってフロアへ飛び出していく。
家では夕貴が僕の分の課題もやってくれているはずだ。その間、僕はこちら側でお金を稼ぐ。
一人じゃできないことも、二人ならできる。
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