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「おかあさん」
「んー? どうしたの朝斗」
「100まんえんほしい?」
「そりゃ欲しいよ」
急に一変した鋭い口調に、僕は思わず身を震わせた。
いつもの優しい笑顔が消えている。普段ワガママの言わないお母さんがこんな顔をするなんて。
「……えっと、どのくらいほしいの?」
「喉から手が出るくらい」
「こわい」
なんてことだ。お母さんの手が三本になっちゃう。
でも、僕たちは間違ってなかった。
あれだけ色々なものを持っている大人があんなに欲しがるんだから、きっと100万円というのはものすごい大金なんだろう。手に入れれば、一生遊んで暮らせるほどの。
だからこそ僕たちは人生のゴールをそこに設定した。
100万円。それさえ集めてしまえば僕たちの人生はもう決まったようなものだ。
「おかあさん、100まんえんあつめるにはどうしたらいいかなあ」
そう訊いたのは弟の夕貴だ。彼は僕よりも少しだけ早く他人に尋ねる。
弟といっても、僕たちは双子で少しだけ僕が先に生まれた。双子なのに顔は似てないけれど、気の合う僕たちはいつも一緒にいる。
今も幼稚園に行く準備を進めながら、どのようにして100万円を集めるかについて頭を悩ませていたところだ。
「そうねえ」
夕貴にズボンを履かせながらお母さんはいつものように優しく微笑んで、僕たちを交互に見る。
「やっぱり貯金かなあ」
「「ちょきん?」」
首を傾げる僕たちはきっと二人同時に、頭の中にハサミを思い浮かべた。
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